第14話 終焉
五分五分の、勝負無しの攻防戦は延々と続く・・・・・使うまいとしても、夢幻斎が能力(ちから)を送ってくる。
(いや・・・使っても大丈夫なはずだ)
夢幻斎の力を使い果たしたとしても、その力はもう一度、夢幻斎に戻る。
判っていても出来ない・・・それが彼の弱点。しかし、それも余裕がある場合。
政宗を生かさず殺さずの状態で締め上げようと、和磨は攻撃を仕掛ける。疲れが出れば、無意識に夢幻斎の能力(ちから)を吸い取ってしまう。
(政宗様・・・・・)
どうすればいい・・・このままでは自分は足手まといでしかない。
瞬間に、蘇芳の記憶が蘇った。
高彬との出会い・・・高彬との日々・・・別れ・・・フラッシュバックのように駆け巡る。
「高彬様」
夢幻斎は立ち上がり、ライターで呪符に火をつけ、それに息を吹きつけた・・・・
「夢幻斎!!!何故!」
一定の距離を保って向かい合う和磨と政宗の間に、夢幻斎が現れた。
「高彬様・・・私が判りますか」
和磨は夢幻斎を攻撃してくる、それを交わしつつ、夢幻斎は和磨に近づいていく。
がしっー 和磨は夢幻斎の首を掴んだ。
「夢幻斎!」
政宗の声は夢幻斎には届かなかった。
「高彬様」
夢幻斎は和磨を抱擁する。
「お迎えに参りました・・・」
そう言って、夢幻斎はくず折れた。そして、政宗は、そこから離脱した蘇芳の霊魂が、和磨をかき抱くのを見た。
「高彬様、もうお許しなさいませ・・・総て・・・」
和磨の瞳から涙が零れ落ちた。
「蘇芳・・・」
「これからは、私がずっと傍におります・・・・ですから・・・・」
くず折れる和磨から、高彬の霊魂が現れる。
「政宗様・・・・」
蘇芳は政宗に向き直る。
「ありがとうございます・・・これで高彬様の怨は解けました。私は高彬様を天界にお連れ致します。
後は、貴方が高彬様の恨を解かれる番」
「恨?とは・・・」
蘇芳は優しく微笑んだ。
「私を守れず、犠牲にした恨です。和磨様は高彬様の怨を、政宗様は高彬様の恨を、それぞれ持ってお生まれになられました」
「俺はどうすればいい?」
「正解は、もうすでに出ております。貴方はそれに従えばいい。そのまま・・・」
そう言って 蘇芳は高彬の霊魂を連れて、天界へと去って行った。
残されたのは和磨と夢幻斎。
和磨の右手には、もう高彬の証は無く、夢幻斎の両手首には聖痕が現れていた。
「夢幻斎!」
政宗は夢幻斎を抱き上げると、人形(ひとがた)のあるところに瞬間移動した。
月光館の地下室・・・・・政宗は夢幻斎をソファーに降ろして屈み、夢幻斎の右手首を握る。
(正解は・・・出ている。成功したのか?絡んだ糸は解けたのか?)
「夢幻斎・・・・・」
政宗は徐々に意識が薄れてゆくのを感じていた・・・・・・
「!政宗様」
意識を取り戻した夢幻斎は、自らの上に伏している政宗を、上体を起こして抱きかかえた。
「政宗様・・・・何故?」
ゆっくり政宗は、夢幻斎を見た。
「お前にかけた術だ。皆既月蝕の・・・」
儀式の日は、皆既月蝕の日だった。
政宗は、わざとその日を選び、政宗が吸い取った夢幻斎の能力(ちから)が、再び夢幻斎に還るよう術をかけた。
欠けた月が再び満ちるように。
「決して欠ける事のない月を、俺の胸に昇らせると誓ったのだ」
夢幻斎の瞳から、涙が零れ落ちた・・・
「貴方はひどい人です・・・私に貴方無しで生きて行けとおっしゃるのか」
「すまない。俺も、お前無しで生きてゆく自信がなかったんだ」
「だから、苦痛を人に押し付けて逝かれますのか!」
政宗は夢幻斎の涙を拭って笑った。
「すまない・・・・赦せ。俺は・・・お前を失いたくなかったんだ。だが、これで高彬公の恨は解けた。
お前も、俺も、宿命から解き放たれたんだ」
政宗の右手には、もう、高彬の証はなかった。
「また来る・・・待っていろ・・・必ず。お前は、俺の久遠の月だ・・・」
「政宗様!」
窓から差し込む月の光が二人を照らす。
総てが終わりを告げた。
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