第15話 約束

 

 

 

     土御門家で行われた、政宗の告別式に参席した来栖葉羽瑠は、檜山藤霞の姿を見つけ、駆け寄った。

「夢幻斎は・・・まだ?」

藤霞は、ため息とともに頷く・・・

あれから夢幻斎は昏睡状態に陥っていた。藤霞は檜山の当主の名代として告別式に参席していた。

「来栖様。あの子はどうしたらいいのですか・・・死ぬ事も生きる事も出来ないまま・・・」

「しかし、夢幻斎も、政宗様も・・・総て立派に成し遂げられました。告別式での先代、幸信様のお言葉によると、預言のまま夢幻斎が

死ぬと、高彬公の恨が解けなかったという話ではありませんか。隠された真実を探り当てられた政宗様は、ご立派でした。」

真理はいつも隠されている。過ぎ去った後明かされる・・・・・

藤霞はそっと頭を垂れる・・・

「来栖様も・・・御偉業成し遂げられました」

後ろから幸信がやって来た。

「先代・・・」

「お茶でもどうですか」

三人は客室にむかった。

 

 

 

抹茶と茶菓子を前に、三人は向かい合う。

「御当主は・・・・まだ?」

幸信も同じ事を訊く。

「はい」

「もしや、御自分の使命を果たせず、主人を守れなかったと悔いておいでなのでは?」

「政宗様の為に、死ぬ覚悟で今まで生きて来ましたから・・・あの子は・・・」

「しかし、御当主を犠牲にしては、高彬公の恨は解けなかったのですよ。今まで高彬公の恨が解けなかったのは、そのためでした。

政宗は、私さえ気付かなかった真実を探し当てたのです。誇りに思います。」

息子を失くした彼は悲しく笑った・・・土御門の先代として、喪主として、個人的な感情は赦されない幸信・・・

「御当主も、あの場で高彬公の怨をはらされた能力・・・ご立派です。」

藤霞は涙ぐんだ・・・・・

「死にぞこなったあの子は・・・・これからどうすればいいのですか・・・」

「御当主は、政宗だけの従者。これからはお弟子さんが土御門の眷属となられましょう。」

「永久欠番・・・ですか・・・」

葉羽瑠は辛そうにつぶやく・・・・

「待ってやって欲しいんです、政宗を。死に際に私のところに来て、もう一度来ると、あの子はいいました。その時まで、夢幻斎を死なせないで欲しいと・・・だから・・・」

藤霞は顔を上げた

「転生されると?」

「はい」

 

 

 

ー夢幻斎・・・・・ー

遠くで誰かが呼んでいた・・・

ー夢幻斎・・・・ー

政宗の姿が見えた。

「政宗様・・・・」

「戻れ。現世で俺を待ってくれ。」

「待つ・・・」

「また来ると言ったろう。こんなところを彷徨うんじゃない」

夢幻斎の瞳から涙がこぼれる・・・・・

「また泣くのか・・・・俺のせいか・・・」

「貴方は、高彬公の恨から開放されたのですね」

「お前も・・・蘇芳から解放された。俺達は今度こそ、運命や使命などに関係なく出逢う事が出来るんだ」

「転生なさるのですか・・・」

「だから待て。100年200年・・・・どれだけかかろうとも」

それも辛く苦しい約束だった。

「俺は必ず、お前のところに行く。約束だ。」

(政宗様は我侭だ・・・・私の辛さなど考えもしない)

「今度会えたら・・・ずっと一緒にいる。約束する。」

 

 

 

 

「政宗様・・・・」

夢幻斎は目を開いた。

傍には、告別式から戻った藤霞と葉羽瑠がいた。

「気がつきましたか」

藤霞は涙ぐんだ。

「待てと・・・・あの方が待てとおっしゃいました・・・」

「転生を約束されたんですね」

葉羽瑠は微笑んだ。

「で・・・待つのですか?」

葉羽瑠の言葉に夢幻斎は頷く。

「所詮私は・・・政宗様の言いなりなんです」

「惚れた弱みですか」

 葉羽瑠が、寂しげに微笑んだ。

夢幻斎の生きる意味は政宗との再会。気の遠くなる時を、ただ政宗のためだけに生きる。

それでも、生きる糧としては充分だった。

政宗の為に死ぬ事も、政宗の為に生きる事も、夢幻斎には同じ位の価値があった。

 

 

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