第13話 最終戦2
来栖邸は黒薔薇団の襲撃を受け、薔薇十字と薔薇巫女は応戦していた。
「架怜は?」
マリは架怜の姿を探す。父は不在だ。大聖堂はマリ、レイ、ユキ3人が守っている・・・・が・・・・
セント・ローザン学園の地下室・・・・祭司専用の幕屋に、大門架怜は忍び込んだ。
会議室なのか、儀式用なのか、倉庫なのかよく判らないこの部屋。
その奥のカーテンの中に配置されたマリア像があった。
「やっと見つけた・・・」
「よく判りましたね」
架怜の後ろから、神父服の葉羽瑠が現れた。
「!」
架怜は、葉羽瑠に右腕をねじ上げられた。
「ここは歴代薔薇巫女達が張った結界。貴方は手も足も出ませんよ・・・・」
(だから・・・わざと侵入を赦したのか)
あまりにも容易く入れたのが不思議だった。
「貴方の事はお見通しですよ。気付いてたでしょ?大聖殿のはダミーだって。士朗の転生なら、それくらいわかりますよねえ」
「あんた・・・何者!?」
葉羽瑠は神父服の右腕の袖をまくり、架怜の前にかざす。
「!転びバテレン!」
「良く知ってますね。今時こんなもの、実物見た人などいないでしょうに・・・私でも、自分にこんな痣がありながら、何なのか判らなかったんですから。夢で知りましたけどね」
架怜は混乱した・・・なぜ?葉羽瑠に昔のキリシタン狩りの、転びの証である焼印の痣があるのか。
それは何を意味しているのか・・・・夢とは?
「お蔭で、真夏でも半袖を着れない身分となりました」
血の様に赤い唇が震える・・・
「あんた・・・何者?」
「私だ・・・士朗。お前の待ち人だ」
くらっー眩暈がする。脳裏に、ある人の面影が浮かんだ。
「忠昭様・・・」
「すまなかった。士朗。間に合わなかった・・・私もお前のところに行く途中で狩られたんだ。やっと牢を出て、お前を探したけれど・・・」
架怜の瞳から涙がこぼれた・・・一度も流した事のない涙が。
「私の為に、牢から出るために・・・貴方は踏み絵を踏んだのですか!」
「最初から、祭司を捨てるつもりで、短筒まで持って出たのだ、転ぶくらい・・・」
「来て下さった」
「でも、お前はもうこの世にいないと思って、後を追った。生きていたとは・・・・探せずにすまなかった」
「生きてお会いしても、もう遅うございます。士朗は・・・魔道に堕ちました」
架怜は泣き崩れる。
「すまなかった。お前をこんなにしたのは・・・私だ」
「いいえ、私が弱かったのです。神を信じる事も、貴方を信じる事も出来なかった」
葉羽瑠は架怜を抱きしめた。
「もう・・・何も恨むな・・・私達は再会したではないか?時間はかなり過ぎたが」
(思い出した。私は・・・この人を待っていたのだ)
媒介となる人間を替えながら、忠昭が生まれ変わるのを待っていた。
架怜が30歳の時、葉羽瑠が生まれた。無意識に架怜は自らの時を止めた。
年老いた姿で逢いたくなかったのだ。
「逢えた・・・・・やっと」
架怜の皮膚がいきなり老化し始める。老婆となり、今朽ち果てようとする架怜。
「忠昭様・・・・」
葉羽瑠が架怜に口づけると、老いた皮膚がだんだん元に戻り始めた。
「気を分けてやる。美しいまま逝け」
「私は・・・・美しいですか?」
「お前以上の美人はいない」
一瞬微笑んで、架怜は息を引き取った。
葉羽瑠は頬をつたう涙を拭うことなく、架怜を抱き上げて、学園の聖堂に向かった。
ー天にまします我らの主よ、哀れなるこの魂に貴方の深き御慈悲を与えたまえー
(士朗、今度こそ安らかに・・・)
一つの、もつれた糸がほどけた。
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