第5話 蒼い月     

 

 月を見上げて、夢幻斎は夜風に吹かれる。

午後9時をまわったろうか、帰る茜を庭に出て送り、そのまま、庭にたたずんでいた。

気配がするのだ・・・・政宗の。

あれから自分の中のもう一人の存在を感じる。一人ではない・・・

(政宗様も、そう感じているのだろうか)

穏やかに、死の時を待つことが出来る。

 

 

「夢幻斎・・・」

恋しさに耐え切れず月光館に訪れた政宗は、月光に佇む麗人の姿を見た。

「政宗様・・・」

振り返り、近づいてくる夢幻斎に、見知らぬ若者の影がだぶって見える。

 

 

 

 

「・・・・すまなかった・・・・蘇芳。お前を守れなかった」

うわごとのようにつぶやくと、政宗はくず折れた。

「政宗様!」

夢幻斎は駆け寄り支える。

 

 

「!俺は・・・・」

「気が疲れましたか」

夢幻斎の腕の中で政宗は一息つく。冷や汗が出ていた・・・・

 

 

 

 

「・・・・蘇芳・・そう言ったのか?」

政宗を支えながら客室のソファーに座らせると、夢幻斎は紅茶を差し出した。

「はい。この前は私が・・・今日は政宗様が・・・いったい、何が起こっているのでしょうか?」

「檜山にも、定也公の書物はあるだろう?」

「原本ではありませんが、あります」

「どう思う?お前は蘇芳の転生か?」

伏せた目を上げて、夢幻斎は政宗を見詰める。

「可能性はあります」

「と言う事は、まだ完全に目覚めていないのか」

政宗は紅茶を飲み干す。

「では、俺は・・・?高彬の転生なのか?」

「多分」

心に暗い影が降りる。政宗は目を閉じて絶望に耐えた。

「矢守和磨は?」

夢幻斎は深い物思いに沈む。

「あの時・・・彼は、拒絶した私をすぐに殺さなかった。無理強いしても、能力(ちから)の伝授は不可能なのは知っているはず。

それでも殺さなかった・・・」

「あいつは・・・高彬公か?」

「判りません!政宗様、手のひらの痣は・・・生まれた時、あったとおっしゃいましたね?」

「ああ、父がそう言った。しかし、すぐ消えたから今まで忘れていたと」

「政宗様と和磨は、元は一人・・・だから、今 和磨の力が落ちているのではないですか?」

政宗には理解できない・・・

(和磨は怨の念を受けて生まれた。俺は何を受けたと言うのだ・・・)

「高彬公は一体、何がしたいのか?恨みを晴らすのならそれでいい。何故、俺にまで何かを託そうとするのだ」

「心に鬼を住まわすまいとされたのでは?」

死の間際の相反する思い・・・・分裂してもおかしくは無い。

「・・・・では、また、お前は俺を庇って死ぬ運命だと言うのか」

「私のことは、心配なさいますな」

 

 

(しかし・・・・しかし・・・・)

 

 

政宗は月を仰ぐ・・・・・

(月よ・・・欠けるな・・・・)

窓から見える月は青く光る・・・・・冴え冴えと。

 

(大事なものを失うまいと足掻く事は、罪なのか)

 

 

 

 

「お前は・・・俺が守る・・・・」

そうつぶやくと、政宗は気を失った。

 

 

 

 

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