10、父なるもの

 

夏休みのバイト。ドイツ語の通訳・・・・だめもとで履歴書を出して採用試験を受けた。

 

「巻町君・・・・・」

人事課の事務員に呼ばれた。

「人事部長がお呼びよ」

とうとう・・・・誠の父、野々宮健司との対面。母の初恋でもあるその人・・・・・

某精密機械製造会社の人事部の応接室に入り、遼は母の葬儀の時、遠くから見た健司を間近に見た。

「座りなさい」

履歴書を持って、健司はソファーに座るよう指示した。

「君に決まったよ、巻町遼君。宜しく」

誠と同じ、真っ黒な黒曜石の瞳に見つめられて、遼は緊張した。

「あ・・・ありがとうございます・・・・」

骨格のガッシリした誠とは、似ても似つかないシャープな体型。

くるくる表情を変える誠とは逆の、ポーカーフェイス・・・・クールといえばクールだ・・・・・

しかし・・・・・・

遼を見詰める瞳は温かい。

(もう、バレてるかな・・・・)

同級生の息子だと。更に息子、誠の友達だという事も、いずれはわかる・・・・・・・

(誠はこの人の血をひいている)

そう思うだけで、いとおしい・・・・

 

 

雇用契約を結び、事務的処理を済ませた後、健司は遼を見詰めて言った・・・・

「君・・・他の会社でアルバイトした経験あるのかい?」

「いいえ・・・アルバイトは初めてですが・・・・」

「にしては・・・・世間慣れしてるなあ」

遼は少し笑う・・・・・

(父さんの血かなあ・・・・)

「困った事があったら、何でもいってくれ。君は俺の部下だから、俺が責任持って何とかする」

頼り甲斐のあるところは誠そっくりだった・・・・・・・

 

はっー

 

遼は我に変える。

人事部長に会ってから誠のことばかり考えている・・・・・・・

 

 

(この人といると誠に逢いたくなる・・・・・・)

 

母の初恋の人に会ってみたい思いと、誠の父親がどんな人か知りたいのと・・・・・・・・・・・・

出逢うことなく失くした”父親”というものに触れてみたい思い。

色んな思いが遼をここに来させた。

幸い・・・猛特訓したドイツ語の通訳・・・・・・・

またとない機会だった。

 

健司に近づくごとに、遼は誠に近づいていった・・・・・・・・・・

 

 

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