11、疑惑

 

夕食後、自分の部屋で夏休みの課題をしていた誠は、突然ため息をつく。

遼の不思議な行動の為、心が落ち着かない・・・・・・・・

 

まず夏休み中、バイトをすると言う・・・ 

そのバイト先が、父の会社でのドイツ語の通訳。

最近亡くなった父の同級生とは遼の母で、二人は高校時代の同級生・・・しかも遼の母は父の初恋の人だった・・・・

3日前の夕方・・・・父と遼が仲良くファミリーレストランで食事しているのを目撃した。

 

(職場が同じなのだから、上司がバイトに晩飯おごってやっても不思議ではないけど・・・・・)

 

のけ者になった気がした。

とられた気がした・・・・ 誰を? 父を? それとも・・・・遼を?

(もしかして・・・親父は遼に、遼のお母さんの面影を見ているのではないか・・・・・)

 

 

ーこの人が、巻町美琴ちゃんよ。お父さんの初恋の人・・・・−

母に、父の卒業アルバムを見せられた。

病室で会った遼の母親、その人だった・・・・・・

 

 

(遼はこの事を知っているのか?親父は・・・・・)

父と遼が特別な仲にあるような気がして、心が乱れる。

 

気分転換、に応接間に下りてゆくと母がドラマを見ている・・・・・

最近、流行しているものらしいが、恋愛物の哀しいストーリーで誠には苦手なものだった。

「母さん・・・・食うもの何か無い?」

「スイカあるよ」

ソファーから立ち上がると、真澄は冷蔵庫の前まで行き、スイカを取り出して切りだした。

父は今週は夜勤でいない・・・・

「はい」

ソファーの前のテーブルにスイカを置くと、真澄は再び、ドラマに見入る・・・・

「それ・・・そんなに面白いの?」

「瞳子と佑一が別れる、いいシーンなのよ・・・」

「・・・なんで別れるのさ・・・」

「実はね・・・・二人は腹違いの兄妹だったの」

「つーことは、親父が浮気してたのか」

こういうややこしい話は、誠は本当に苦手だ・・・・・

「瞳子のお父さんが、昔付き合ってた彼女がいて、別れた後、身篭っていたことがわかって・・・・彼女が一人で産んで育てたのが佑一。」

どきっー 

(なんか・・・似てないか・・・・まさか)

「兄妹だから、魅かれあうってこともあるのかしらねえ」

人事のような母の言葉にまたどきっ・・・・・・

(男の遼に変に惹かれるのは・・・・俺達・・・もしかして・・・・)

「兄弟じゃあ・・・・愛し合えないよねえ・・・・」

「当たり前でしょう」

(じゃあ・・・俺達・・・・・)

はっ!

誠は大事な事を忘れていた事に気付く・・・・・・・

(違うだろ!!!血が繋がっていようがいまいが、俺達は男同士だ・・・)

ファミリーレストランでの、父と遼の仲のよい姿が目に浮かぶ・・・・・・

(もしかして・・・・親子の名乗りなんか上げてんじゃないか?)

深刻になっている誠を見て、真澄は首をかしげる・・・・・

「所詮つくり話なんだから・・・あんた何、深刻になってるの?」

(俺達も・・・・別れなきゃ・・・いけないんだ・・・遼がドイツに行って逢えなくなるとかそういうのでなくて・・・・・好きになってはいけないんだ・・・・)

「誠・・・・」

息子の異変に戸惑う母、真澄・・・・・

「・・・・・母さん・・・一つ訊いていい?」

「何?」

「俺の名前・・・誰がつけたの」

(美琴・・・誠・・・・一字違いだ・・・・親父は遼のお母さんをまだ愛しているに違いない・・・・)

「お母さんがつけました」

「え?」

「大好きな漫画の主人公の名前なの・・・」

がくっー

安心したやら・・・・気が抜けたやら・・・・・

「その漫画・・・何か・・・訊いていいかな?」

「いいけど・・・あんた知らないと思うよ。”愛と誠”て言ってねえ・・・・」

「ごめん・・・・知らない・・・・」

名前の疑惑は晴れた・・・・が・・・・

兄弟説・・・・・・・・・・・

力なく、誠は再び二階に自分の部屋に上がっていった。

 

 

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