遥想 3

 

夜、前触れもなく、思いつきで来た伊吹のマンション。

ドアを開けると、まだ9時前なのに真っ暗だった。

 

龍之介が寝室に入ると、本を手にしたまま眠っている伊吹がいた。

「疲れとんな・・・こいつ」

そう言いつつ、本を取り上げる。

「『リア王』て・・・やくざが読むもんと違うぞ」

本を机の上において、タオルと着替えをクローゼットの引き出しから取り出すと、浴室に向かった。

実は今日、吉原の実家に聡子が顔見せに帰っており、龍之介も夕食に呼ばれていたが、

いきなり仕事で外出する羽目になった。

伊吹はもう帰宅した後で、南原を連れて行き、帰りに伊吹のマンションで下ろしてもらった。

 

「予定は狂いまくりで、今日は変な日やな・・・」

浴室から出て、ドライヤーで髪を乾かしつつ呟く。

いつものペースでここに通い、不自由は特には無い。

(伊吹の寝顔見ながら寝るかな・・・)

滅多に見れないので珍しいらしい。

 

しかし・・・

龍之介がベッドにもぐりこむその気配で、伊吹は目を覚ました。

「龍さん!何時の間に!!」

「お前、眠りが浅いぞ。」

「夜這いされて気付かん方がおかしいんですよ」

夜這いてなあ・・・・・龍之介は渋い顔をする

「おとなしく寝るつもりやったんやぞ。マジで」

「そうですか・・・そしたら、おやすみなさい」

え?!

「寝るなよ・・・」

龍之介は焦る

「ほら、ここに可愛い龍ちゃんがいるのに〜」

寝起きのぼやけた状態で、伊吹は頭が廻らない。リアクションなし。

「おい!倦怠期か?」

「いえ、寝起きでボケてるだけで・・・」

だるそうに言う伊吹に龍之介はのしかかる

「そのけだるい顔がなかなか そそるぞ」

はあ・・・

しかし、条件反射で伊吹は龍之介を抱きしめる

「歳ですかね・・・疲れやすくて・・」

おいおい・・・

「働きすぎやろ・・」

「老いぼれても見捨てんといてくださいね・・」

あのな・・・・

絶句する龍之介。

「わかった、おとなしく寝よう」

え・・・・・

「そういいつつ・・・龍さん・・・なに脱いでるんですか?」

 

 

 

「さっきは、なんやったんや?」

腕枕で、まったりしつつ、龍之介は訊く

「寝起きは・・・あんなもんです。」

ホンマか・・・・

長い付き合いなのに始めて見た、だるそうな伊吹・・・

「こういう姿、見せられへんから、人より早めに起きてたんですよ」

え・・・・・

「とうとうバレましたねえ・・・」

「ちゅうか、よくも今まで、俺に隠せてたな」

他の人ならいざ知らず・・・

「すみません・・・」

「いや、襲いたくなるほど、イロっぽかったぞ」

何処がですか・・・声も出ない伊吹・・・

まだまだ、隠された秘密がありそうだと思う龍之介。

「もっと自然体でいけよ」

「いいですね。龍さんはいつも自然体で・・・」

「伊吹が受け止めてくれてたからな」

そうか・・・・伊吹は頷く

「俺の前では、どんな姿 晒しても構わんから」

大きくなった・・・・そう思う。

泣いて、拗ねて駄々こねていた ”ぼん” はもういない・・・

その代わり、伊吹の総てを受け止めようとする 恋人 がそこにいた。

「まだまだ、秘密がありそうやな・・風呂に一緒に入りたがらんのも何かある」

「入ったでしょ?風呂。子供のとき・・京都でも・・・」

あっ、龍之介は顔を上げる

「惜しい事を・・・あの時、一緒やったのに、惜しい事を・・」

何が惜しいんですか・・・

「て・・・あん時は親父らも一緒やったやんか!」

「あの、何がしたいんですか?」

「あ。お前、俺が何か変なことするとでも・・・」

極端に嫌な顔をする龍之介。

「風呂ぐらい、一人でゆっくり入らせてください」

「恥ずかしいんか?」

「怒りますよ!」

とうとう怒られて黙り込む龍之介。

 

「何で・・・こだわるんや・・・」

「龍さんこそ・・・」

 

「そんなに言うなら、また幹部の親睦旅行で温泉に行きますか・・・」

「いや、人前でそんな事したら・・・」

「だから〜何をする気なんですか!」

 

しゅん・・・・・しょげる龍之介・・・

「伊吹は俺の事、誤解してる・・・・」

誤解してません。正確に理解してます・・・・・

 

「風呂にこだわらんでええでしょう?」

うん・・・龍之介は頷く

「そうか・・・伊吹は寝室でないと落ち着かんと・・・・とすると・・野外なんとか〜も無理か・・」

「龍さん!それ以上いうたらその口、石鹸で洗いますよ!」

「ついでに、全身洗てくれ・・・」

・・・・・・・・・・・

沈没する伊吹に、笑いかける龍之介・・・

「冗談やし〜〜〜〜」

(伊吹て、おちょくったら面白いし・・・)

伊吹をおちょくるのは龍之介の密かな楽しみだった・・・

 

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