遥想 1

 

あわただしく時は過ぎ、桃香は高校を卒業し、南原と結婚式を挙げる。

 

「やっと一段落付いたって気がしますね」

式の後、結婚式場のロビーで、新婚旅行に出発する二人を見送るために待っている伊吹は呟く。

「大きい行事はこれで終わりか。」

龍之介もため息をつく。

親組の闘争に始まり、伊吹の行方不明、記憶喪失、伊吹の妹の登場、聡子の出産、紀子の結婚、

南原の婚約、結婚・・

とても慌しかった。

「少しの間は、ゆっくりしたいなあ・・・」

新米の組長には、かなり過酷な日々だった。

「こうして見ると、なかなか、南原は立派ですな・・・いつもは藤島の影に隠れて目立たんけど・・」

室戸がやってくる。

南原を淀川の養子にしたかったのに、出来なかった事が残念でたまらない。

「先代に見せたかった・・・嬢さんの花嫁姿・・」

姉妹の中で一番、親思いで、姉思いで、妹思いの桃香を先代は案じていた

ともすると、家族の犠牲になって、望む人生を歩めないのではないかと・・・

(先代、これでええんですよね。嬢さんは惚れた男と一緒になれた。姐とか、組長の娘とか言う しがらみからも

開放された。もう組の事に気ぃ使うことなく、夫だけ見て生きていける。)

「8代目、ウチの嬢さん、よろしゅう頼みますよ。」

「はい、もし南原が粗末にしたら指ツメさせます」

(龍さん・・・怖いです・・・)

隣で伊吹が怯える。

 

やがて桃香と南原が出てきて、挨拶をして車に乗り込む・・・・

 

「オーストラリアに行くんでしたっけ・・・」

伊吹が、去ってゆく車を見つめつつ言う

室戸が総て段取りをしたらしい。

「しかし、車5台で護衛つきか・・・」

襲撃される恐れがあるため、室戸の軍隊の護衛つきである。

「おもろいか?護衛つきで新婚旅行に行って?」

龍之介の突っ込みに苦笑する伊吹。

げっそりと、やつれて帰ってくる南原が見える・・・・

 

 

「寂しいか?」

帰りの車で、龍之介は伊吹に訊く

「別に・・・」

「無理すんなよ・・・」

やけに絡む龍之介を聡子は制する

「龍之介さん・・・」

「室戸も、肩の荷下りたな」

哲三はしみじみと言う

「いえ・・・末の嬢さんが残ってるでしょ、まだ」

伊吹の言葉に笑って頷く。

「そうやな・・・」

 

「しばらくは、何にも無いとええなあ・・・」

龍之介の言葉に一同は大笑いする

「お疲れさん、8代目」

襲名を急いだのを少し気に病む哲三だった。

でも・・・・

「このくらい序の口やで。」

釘を刺すことも忘れない先代組長、鬼頭哲三・・・

「マジかい!」

泣きが入る組長、鬼頭龍之介。

とにかく、南原が幸せになってくれれば、伊吹も安心だった。

最大の気がかりだった南原・・・

季節は巡り、暖かい春が来た。

窓の外を流れる新緑の若木を見つめつつ、未来に思いを馳せる。

時が過ぎれば、皆、変わってゆく。めぐる季節も決して同じものではない

しかし、伊吹はそこに不変の想いがある事を信じている。

最愛の人と交わした約束。

自分達だけは変わらずにいようと・・・・

 

そして、

 

少しも変わらない想いが今、ここにある。

出会った頃とは、見違えるほど変わってしまった愛しい人の隣で、相変わらず笑っている自分がいる。

長い時を越えて行く、遥かなる想い・・・・

 

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