理解と誤解の狭間 3

 

その日、事務処理で帰りが遅れて、伊吹は鬼頭で夕食をとっていた。

「伊吹さん、遅くまでお疲れ様ですね・・」

優希を抱いて聡子が台所に現れた。

「食後のコーヒー入れましょうか?」

ベビー用の椅子に優希を座らせて、聡子はコーヒーを入れる

「姐さんも、育児、大変ですね・・」

「私の仕事ですから・・・これは。」

優希はかなり大きくなり、人見知りの時期に入った。

懐くのは、母親の聡子と伊吹にだけ・・・

「龍之介さん見ると、優希が泣くんで困ります」

そう言って、聡子はコーヒーのカップを差し出す

「ショックですね、それは。」

「皆に人見知りだから、仕方ないんですけど・・・」

昨夜も”伊吹に懐いててなんで、俺には人見知りやねん・・・俺は親父やぞ・・・”

そういって落ち込んでいたのを聡子は思い出す・・・

確かに・・・

伊吹の横に座っている優希はご機嫌である・・・・

「人見知りは、知能が発達している証拠ですから、悪い事じゃないですよ。」

ただ・・・何故、父親を見て泣くのか・・・

「組長バージョンの龍之介さん見て、怯えたのかしら・・・」

そんな・・・・

言葉も出ない。

ふうっ・・・・

聡子も自分のカップを持って席につく。

「でも、龍之介さん結構、親バカなのよ・・・」

「判ります」

笑いあう二人。正妻と情夫(いろ)

 

「お前ら、何を家族してるんや・・・」

風呂上りの龍之介がやって来た・・・・

どっちが夫婦かわからない・・・・

「龍之介さんも、コーヒー飲みます?」

聡子は立ち上がりコーヒーを入れる

「伊吹がおると、優希は俺見ても、泣かんな。」

ため息混じりに席に着く龍之介・・・

「少しの辛抱ですよ」

伊吹は慰める。

「親父失格かな・・・俺。」

「龍之介さんも、小さい頃、義父様に人見知りしてたんですってよ・・・島津さんには懐いてるのに」

ああ・・・・

DNAか・・・・半分諦める龍之介・・・

「間違いなく、組長の息子ですね」

やはり・・・行く先は・・・へタレか・・・

心配な龍之介

 

 

「にしても・・・」

結局、鬼頭に泊まることにした伊吹の部屋で、龍之介は呟く。

「お前と聡子は、どういう関係や」

はあ・・・・・

「仲良すぎるぞ」

えええ・・・・・?

「はな、仲悪い方がええんですか?」

本妻と妾・・・・こんなに和気藹々だと、不自然ではないかと思う龍之介。

「もしかして・・・俺の事なんか、どうでもええんと違うか・・・」

無いものねだり、と言うか・・・・妬いてくれないと寂しい龍之介だった。

「色々な想いを、乗り越えてるんですよ。私も姐さんも。」

留美子もそんな事を言っていた・・・龍之介は思い出す。

「それやったら・・・・一人で怒って、拗ねてる俺は、アホなんか・・・」

桃香との一件は記憶に新しい・・・

「あんまり、大騒ぎすると、ギャグになるんで・・・」

ギャグか・・・・・・ため息をつく。

悟りが開けるのは、いつのことか

「まあ、龍さんは誤解も多いけど、理解もあるから・・・いいんやないですか?」

ー 一人で大騒ぎするバカ ー

 氷の刃が台無しになる・・・・

そうならないように気をつけなければ・・・心に堅く誓う。

 

「そういうことですから、龍さんも部屋に帰らはったら・・・」

「あ・・・冷たいな~」

「姐さん、待ってはりますよ」

「ほんまに冷たい・・・」

呟きながら出て行く龍之介に大笑いする伊吹は、出会った頃の龍之介にそっくりな、

5歳の優希に早く会いたいと思う。

 

拓海のところと・・・いづれは南原のところも、子供が生まれるだろう・・・

優希の周りも賑やかになる。

 

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