誤解と理解の狭間 2

 

 「鬼頭!誤解せんといて。うちが、藤島に肩の傷、見せて欲しいて頼んだんや・・・」

桃香が必死にフォローする。

「そんなもん見て、どうするんですか?」

笑みを浮かべてはいるが、腕組み状態の龍之介。怒っている・・・

「圭吾を庇って出来た傷痕を・・・見たかったから」

ああ・・・・

龍之介は頷く。

「気持ちは判りますが、やくざの傷なんか、鑑賞するモンとちゃいます」

「無理は承知で頼んだんや。圭吾の事、全部知りたいから・・・」

俯く桃香に、龍之介は苦笑する。

「こんな事にでも、やきもちやいてるんですか?嬢さんは。まあ・・・今回は、嬢さんに免じてスルーしますけど。」

と、腕組みを解く龍之介を見て、留美子はホッとする。

「8代目〜私って、そんなに怪しいの?」

心配して、見に来るほどの危険人物指定された星野留美子・・・・

「危険です」

もう・・・・

ため息の留美子・・・・

「これからは8代目とセットで呼ぶから・・・」

「そうですね」

桃香の事を言う資格無しの龍之介・・・究極のやきもちやき

「伊吹の傷も、私のモンですから、私の許可が要りますよ。」

留美子も桃香も絶句する・・・・

 

「そしたら・・・伊吹、連れて帰ってええですか?」

と、服装を元に戻した伊吹を見る

桃香、留美子、龍之介のやり取りに入れなかった伊吹が、無言で立ち上がる・。・・

「・・・藤島、またな・・・」

と言う留美子を睨みつける龍之介・・・

(またて・・・また呼びつける気か?)

「気ぃつけて・・・8代目・・」

睨まれて、ひきつりつつ手を振る留美子・・・・

 

 

「あの・・・」

乗ってきた鬼頭の車に乗らず、運転手の高坂を帰し、龍之介は伊吹の車に乗り込む。

「突発的な外泊は・・・アリですか?」

運転しながら、伊吹は後部座席の龍之介に問いかける

「おとなしゅう帰れんわ。こんな状態で・・・」

「すみません・・・・」

「充分、誤解される状態やったぞ・・・あれは。」

そうなんですか・・・・

ため息の伊吹。

 「でも、嬢さんは南原を想うての事で・・・」

「判るけど、ハラ立つ。お前も、傷を軽々しく晒すな。嬢さんの気持ちは判るけど、南原と関連付けられるのも

好かんし。」

確かに、南原を庇って出来た傷ではある・・・・が・・・

それ以上に、この傷は龍之介が19の時から、夜毎に愛してきた経歴を持っている。

 「お前は、その傷見た時、俺を思い出すか?それとも、南原を思い出すのか?」

(龍さん・・・)

「そやから、恥ずかしいから、人目に晒すな」

「そう言われると・・・私も恥ずかしくなってくるんですが・・・」

マンションの駐車場で車を止めた伊吹は そう、ため息をつく。

 「もう、お前の傷は、南原とは関係ない。」

断言して、車を降りて歩き出す龍之介に、伊吹は苦笑して続く・・・

「でも、春日様のこと、あんまり目の敵にせんといてください。紗枝様亡くした後、私にはお袋みたいな存在

やったんですから。」

判る。でも、自分の知らない。伊吹にとっての何らかの存在・・・それが許せない。

エレベーターに乗りつつ龍之介は呟く

「俺、心、狭いんかな・・・」

ドアが開き、二人はエレベーターを降り、伊吹の部屋に向かう

「まあ・・心、広くはないですね」

部屋の鍵を開けつつ伊吹は笑うが、龍之介は笑えない。

部屋に入ると龍之介はソファーに座り込む。

「お前以外は、別にどうでも、かまわんのになあ・・・」

(それも問題です)

組員がかわいそうに思えてくる・・・

「心、狭すぎてお前しか入らんようやな・・・」

それでも、龍之介は鬼頭の8代目・・・・組も組員も、妻も子も背負う身。

「大変ですねえ・・・それで組長して、父親で・・」

笑いつつ伊吹は、龍之介の上着をハンガーにかける

「世間のしがらみ、ちゅうやつか・・・」

それが、鬼頭の跡取りとして生まれた宿命なのか・・・

その点、自分は楽だと伊吹は気づく。

責任持つべき家族はいない、組長側近は、組長だけに忠誠を誓えばいい。

「お前のお蔭で、それもこれも、乗り越えられるんや。」

立ち上がって、龍之介は伊吹の肩を抱えて引き寄せる。

組長の重荷にも負けずに、頑張る龍之介が誇らしい・・・

「龍さんは、組長の器ですから。生まれつき・・・」

 何とか、ここまで来た。それだけは確か。

「しかし、お前がおらんかったら、どうでもええ人生、歩んでたんかな、俺は。」

さあ・・・

首をかしげる伊吹。

「お茶しますか?風呂にしますか・・・」

龍之介は、伊吹の台詞に大爆笑する

「新婚のヨメかお前は!」

はあ・・・

ぴんと来ない伊吹に、龍之介は目に星を作り、胸の前で合わせた両手を組んで、満面の笑顔で言う

「あなた〜お帰りなさい。お食事にする?お風呂?それとも・・」

それを急いで制止させる伊吹。

「判りました。皆まで言わんでええです。まったく・・・そんな隠し芸、何処で覚えはったんですか?」

「昔からの俺の夢やから・・・」

(まだ、ヨメになりたいんですか?)

あきれて何も言えないでいる伊吹を横目に、龍之介は浴室に入ってゆく。

誤解もするが、理解心もある。なかなかいい子に育ったじゃないかと、伊吹はふと思う。

そう考えて、龍之介は優希の父である事を思い出し、苦笑する。

(あのぼんが、もう親父さんか・・・)

時の流れに少し戸惑う。

 

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