仮面 3

 

ひと段落して、南原も戻ってきて、年末に向けて忙しい鬼頭組。

島津ぬきの年末年始・・・いると何かとおちょくられるが、いないと寂しい。

引退したのだから、来る必要は無いのだが、それでも顔を見せていた島津。

引退しても頼りきりの鬼頭一同。

とにかく忙しい。

 

「それにしても、あの時、物凄い賭けやったな」

龍之介の書斎で書類整理の途中、龍之介は斉藤の話を持ち出す・・・

「危ないとこでした。斉藤の兄さんがリバやったら、完全アウトですよね。」

今思ってもヒヤヒヤする伊吹・・・

「お前もー私、受けなんですーとか、そういう嘘ようつくなあ・・・」

「似合いませんか・・・」

「いや、お前より斉藤の方が似合わんけど・・」

あまり考えたくない

「つーか・・・恋愛に不自由してそうやな」

どうしてそんなに斉藤に関心を持つのか・・・伊吹はため息をつく。

「そういう世界の事は、よう判りませんし・・・」

 

しばし沈黙が流れる・・・・・

 

「何も判らんまま俺ら、ようここまで来たなあ・・・」

 

再び沈黙・・・・・・

 

「そういえば、加瀬君、元気ですかねえ・・」

思い出したように伊吹が呟く

「ああ、活躍してるみたいやけどなあ。ほら、加瀬の妹、同人誌してた・・・」

加瀬百合子、未成年なのに歳を偽って18禁漫画を描いていた腐女子・・・

「今、大学生ですよねえ・・・東京に行ってるとか・・」

「漫画家デビューしたらしい」

え!!!!

「それは・・・あのお・・・」

「今、やおいとかBLとか、結構人気あるらしくてなあ・・・売れっ子らしいで。ペンネームが・・白鳥百合華とか・・」

BL描いていて百合とはこれいかに・・・・

「シリーズもんで、極道界が舞台で・・・やくざの組長と側近がどうのこうの・・・」

「組長!それって・・・」

はっ!!!

龍之介は真っ青になる・・・

昔、百合子は取材だといって、鬼頭に来ていたではないか・・・・

ある事無い事、描かれているだろうその漫画・・・

「いっぺん、その本、入手して調べなあきませんね・・・」

「読む勇気あるか?」

大学生時代、加瀬の部屋で、百合子の同人誌を手に取ったことのある龍之介は伊吹にそう訊く。

「そんなに・・・アレなんですか?」

「ああ・・アレやな」

 

沈黙・・・・

 

「警告入れたほうがええんとちゃいますか?肖像権とか・・」

「そんなん・・・認めるようなもんやんか。」

(やくざに喧嘩売っとんかい!)

伊吹は久々にムカついていた・・・・

 

 

鬼頭組一同が昼食を摂っているとき、宮沢が現れた。

「久しぶり」

「兄さん何処行ってはったんですか?」

高坂が心配そうに聞く。

ここ数ヶ月、宮沢は鬼頭にいなかった。

「野暮用で・・・奥さんの実家のごたごた納めて来たとこや。すまんな、留守にして・・・」

(いいえ・・・平和に暮らしておりました。)

心で呟きつつ、伊吹は味噌汁の椀を取る。

「お昼、召し上がるでしょう?」

優希をおぶった聡子は、宮沢の分の昼食を、盆に乗せて運んでくる。

「すみません。頂きます」

食卓に座る宮沢。

「ああ、南原、婚約おめでとう。物は邪魔になるかもしれんから・・・祝いは現金でさせてもらうわ」

と南原に封筒を渡す

「ありがとうございます」

「生活用品は揃ってるよな・・・何か結婚祝いに欲しいもんあるか?」

「特には・・」

「ダブルベッドとか・・・」

「それは鬼頭で贈る事になってるから」

龍之介が、食事を終えて湯のみで茶を飲みつつそういう。

「鬼頭組一同でお祝いは頂くんで、個別のお祝いはご辞退します」

そう言って、食事を終えて立ち上げる南原を見つめる宮沢。

「欲の無い奴やなあ・・・」

笑いつつ箸を取る。

「兄さん、ごゆっくり・・」

伊吹も席を立つ

「あ、藤島、特別お前に土産。」

と宮沢は伊吹に大きな紙袋を渡す。中には大量の本が入っている。

「なんですか?」

中の一冊を手にとる。”夢の断章” と言うタイトルの漫画、著者は白鳥百合華・・・

「姪っ子が集めててなあ・・なかなか面白いから買うてきた。コレ描いたの加瀬君の妹やろ?」

嫌な予感がした・・・・

「まあ、この表紙の二人、龍之介さんと伊吹さんそっくり・・」

後ろから、伊吹の手元を覗き込んだ聡子が嬉しそうに叫ぶ

「兄さん・・・・」

伊吹は恨めしそうに宮沢を見つめるが、ただ宮沢は笑っている。

 

 

午後の龍之介の書斎・・・・

「組長!そんなん読まんでええです!」

宮沢の持ってきた漫画を、夢中で読む龍之介を伊吹はたしなめる。

「ストーリーは、なかなか面白いぞ。時々アレな場面はあるけど・・」

「アレな場面が、しつこいくらい長すぎますよ・・」

横目で盗み見している伊吹が顔をしかめる。

「お前も見とるやないか・・・」

「女の子の描く漫画ですか?コレが・・・これは持って帰って封印します」

と龍之介の呼んでいる本を取り上げる。

「そんなこと言うて、一人でゆっくり読むんやろ?」

「読みません!それより加瀬に連絡して妹を何とかするように言うてください!」

「まあ・・これ、完結してるし・・・最新作は、事業団が舞台で ”バレーの王子様”・・・て・・これ加瀬?」

本のページに挟んである、出版社の新刊の広告のチラシを見ながら龍之介は呟く・・・

広告のイラストは明らかに加瀬俊彦に似ている・・・

(難儀な妹やなあ・・・)

伊吹はため息をつく

はた迷惑な妹を持った加瀬の苦労は続く・・・・

 

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