仮面 2

 

 今年最後のイベントである、淀川の結婚式に龍之介、哲三、聡子、伊吹は参席した。

南原は、ついでの婚約披露の為、一足先に式場入りしている。

「おお、ぼん。来たか」

先に由布子夫人と来ている島津が、哲三を見つけて駆け寄ってくる

「信さん・・・」

「今年は正月は、ワシは鬼頭にはおらんよ。東京の展示会の準備があるからな」

「信さんも忙しいなあ・・・」

哲三は笑う

「兄さん、すみません。忙しいのに紀子の結婚式の準備やら色々させて・・」

伊吹が頭を下げると島津は大笑いする。

「何かしこまってるんや・・花園先生の事は、お兄さんの頭取さんからも頼まれてたし。気にすんな」

そんな事をロビーで言い合っていると、室戸が10代目になる旧姓、稲垣を伴ってやってくる・・・

「皆さんお越しで・・・今日はありがとうございます」

「いえ、この度はおめでとうございます。ご招待いただき、ありがとうございました。」

事務的な口上も出てくるようになった龍之介は、そういって頭を下げる。

「ウチの10代目もまだまだですが、よろしゅうお引き立てのほどを・・・」

そういうと二人頭を下げる

「もう淀川の組長さんになるんやな」

哲三もしみじみと呟く

「はい。」

襲名当時の龍之介のような初々しさを感じる

が、極道歴は彼の方が長い。貫禄さえ身につければ立派になるだろう。

「兄さん・・」

「兄さん違うでしょう。組長、藤島とお呼びください」

伊吹にたしなめられて苦笑する10代目

「もう、内部紛争など起こらんように取締りますから、今までの無礼は水に流してくださいね」

「お気になされずに。あの事件のお蔭で、生き別れた妹を見つけることが出来ましたから・・・」

 「妹さんも、この度ご結婚されたとか・・・おめでとうございます」

「ありがとうございます。それで、敬語はやめてください」

「ああ・・つい・・」

大笑いの一同。

もともと、稲垣はやくざに向かないほど、律儀な男だった。

いきなり淀川の10代目になったからと、タメ口などできないのだ

去ってゆく室戸と稲垣を見つめつつ、龍之介は呟く・・・

「大丈夫か・・・」

「まあ、人格に問題なしや、貫禄さえ備えたら・・・」

哲三がフォローする

「それより、組長も、”稲垣”とか呼ばんようにしたくださいね。親組の組長ですから」

ふ〜〜〜

龍之介はため息をつく。とんだ下克上だ・・・・

「式場入ろうか」

島津の言葉に一同は式場に向かう・・・

 

 

 

「花嫁さん、綺麗でしたね・・・桃香さんも・・」

式が終わり、席を立つと聡子はうっとりと、そう言う

「南原、淀川の組長より貫禄あるな・・・」

龍之介もこっそり呟く

「さすがは私の弟分です」

伊吹は誇らしそうだ

帰ろうとした時、結婚式に参席していた大山組の幹部、斉藤守が伊吹を呼んだ

「藤島、ちょっと話がある」

40半ばの大男。背は伊吹と同じくらいだが、格闘技系の逞しい体躯のお蔭で、伊吹より大きく見える。

「伊吹」

龍之介は身構える。襲撃事件の傷は完全に癒えてはいない。

「すぐに済むから、きてくれ」

伊吹の腕を掴んで話さない龍之介を、島津は制する。

「若ぼん」

仕方なく手を離し、伊吹を見上げる

「すぐに戻りますから・・・」

微笑んで去ってゆく伊吹の背中を見つめつつ、龍之介は眉間にシワを寄せる。

「若ぼん、心配ないよ。大山組はウチよりはるかに大きい、鬼頭にちょっかい出しても何の得もないて」

それを訊いて、龍之介は少し安心したが、新たな心配が湧いてきた

「待て、そしたら・・・まさか、あいつ伊吹の事・・・」

昔から何かと伊吹にまとわりついていた・・・

さっきの斉藤の目も引っ掛かる。普段の極道の目ではなかった・・・

「まさか、そんな噂はないけどな。でも、あいつ女関係の噂も聞かんな・・・」

(ヤバイ、絶対ヤバイ!!!あんな大男に襲われたら、いくら伊吹でも・・・)

真っ青な龍之介に怯えつつ島津は苦笑する

「まさか、こんなとこで・・・セクハラするような場所は無いし・・」

沈黙が流れた・・・・・・・・

 

 

人通りの無い、階段の踊り場で斉藤は立ち止まる。

「兄さん、話って・・・」

「お前、8代目の情夫(いろ)やろ。隠しても判るぞ。俺には」

何の目的で・・・伊吹は身構える。脅す気なのか・・・それとも・・・

「隠す気はありません。恥とも罪とも思ってませんし」

「俺はお前の事ずっと想い続けてきた、その事もお前は知らんのやな・・・」

ええっ・・・・

意外な方に話は進む

「でも、しゃあない。お前の事は諦める。諦めるから、最後に一度だけ・・・」

ナンですか!!!!

襲撃されるより恐ろしい状態に陥った伊吹。ピンチ!!!

「一晩だけ付き合ってくれ」

「と・・・仰いますと・・・」

伊吹は心で半泣きになっている

「鬼頭にばれんように、一度だけ俺と寝てくれ」

ぎゃあああ・・・・

伊吹の心の悲鳴は斉藤には聞こえない。

「でも。ばれんかったらええ、ちゅうもんでもありませんし・・・」

がばっ

斉藤は伊吹に抱きついてくる

「それでも、諦め切れんのや。藤島。」

て言われても・・・

「鬼頭みたいにすらっとした男やないとあかんか?」

そういう問題とちゃいます・・・

「やはり・・・ガテン系の男は抱けんか?」

はぁあ・・・・

何か・・・おかしい。

伊吹は必死に逃げ道を探す。

イチかバチか・・・・伊吹は賭けに出た

「兄さん、すみませんが・・私は受けです。」

ええ〜〜〜〜

今度は斉藤が驚く

「まさか・・・・」

「この話は無かった事にしましょう。私も何も聞かんかった事にします。」

「リバは・・・」

「しません・・・」

力を落とす斉藤守

「すまんかったな・・・・」

しおしおと去って行く後姿に、少し罪悪感を感じつつ、伊吹は胸をなでおろす。

(人は見かけによらんなあ。あの斉藤の兄さんが受け専とは・・・)

 

「伊吹」

斉藤が去ったのを見計らって、龍之介が駆け込んでくる。

「組長、来てはったんですか」

「やっぱり、あいつ、お前にちょっかい出そうと呼び出したんか・・・」

「やはり見るもんが見たら、判るんですね。私ら。」

側近の仮面を被った情夫(いろ)・・・それを痛いほど実感した。

「−隠す気はありません。恥とも罪とも思ってませんしー か・・・惚れ直したわ。」

ぎくっ・・・聞かれていた。固まる伊吹。

「お前に免じて、斉藤の事は無かったことにしてやる。その代わり・・・」

近づいてくる龍之介に後ずさる伊吹・・・が、壁にぶち当たる。

これ以上逃げられない状態で、伊吹は龍之介にキスされる・・・

 

「組長!」

「羞恥プレイ。こういうのも慣れろよ〜」

大笑いで去ってゆく龍之介の後ろを、伊吹は追いかける

何処か弄ばれている気がしてならない。

(龍さん、切り替え早すぎ・・・)

すでに先ほどのお茶目な表情は消え去り、氷の刃の8代目の顔をした龍之介が伊吹の前を歩いていた。

 

 TOP         NEXT 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system