兄弟3

 

 朝早く拓海を帰して、伊吹は出勤準備をする。二日酔いも意無く、快調な出だしだった。

鬼頭に行くと、久しぶりに南原が来ていて、皆に冷やかされている。

(今が一番ええ時やなあ・・・)

しみじみする伊吹を見つけると、南原は大きな箱を抱えてやってきた。

「兄さん、明日ですよね」

「何が・・」

「誕生日・・・」

ああ・・・・

例のごとく忘れていた・・・

「一旦部屋に置いといてください。すみませんね、かさばって・・・」

例のごとく、南原は伊吹に送り物をする。

「チョット、部屋に来い」

自室に南原を呼ぶと、先に歩き出した。

 

部屋で箱を開けると、冬のコートが入っている。

「そろそろ、買い替え時でしょう?今 着てはるの・・」

タイムリーに贈り物をするので有名な男だった。

「すまんな。いつも。でも、もう、お前も所帯持つんやから、俺の事気にするな。嫁のこと気にせいよ」

はははは・・・

南原は笑う

「私も何か辞められんと、ずるずるしてきましたけど、やはり、コレで卒業ですかね」

「その調子で嫁さんに尽くせ。」

伊吹を見上げる南原の瞳に迷いは無い。

「結婚祝いは贈らせてもらうから・・・所帯持ったら一人前や。頑張れよ」

南原の肩を叩いて、伊吹は部屋を出る。南原もそれに続く・・・

そこへ伊吹を探しにきた龍之介とばったり・・・

「組長」

「声がしてたのに、書斎に来んから・・探したぞ」

「すぐ行きます」

去ってゆく龍之介と伊吹を見つめつつ、南原は微笑む。

今となっては過去の想い・・・二人には添い遂げて欲しいと心からそう思える・・・

 

「何の話や」

書斎に入るなり、訊いてくる龍之介に少しうんざりする。

「恒例の誕生日プレゼントは、これで卒業と言う事に話が付きました。これからは嫁に気ぃ使えと言いました」

ふうん・・・・

龍之介は頷く

「それはまあ、当たり前やなあ・・・て!お前何貰うた?」

「冬のコートを・・・」

「大物かますなあ・・・まあ、ダブらんかったからええか。」

え・・・

「今年からは、俺がちゃんとバースディプレゼントを準備するから、南原のが無くなっても寂しないぞ」

「もしかして・・・それで昨日・・」

「明日やしな〜」

贈るウレシさにハマってしまったらしい龍之介・・・

「明日は午後から早退させたるぞ」

はあ・・・・・

「俺と二人早退する」

え・・・・

「ええです・・・通常勤務しましょう」

何?・・

龍之介は顔を上げる

「それとも、紀子たち呼んで、お食事会は?」

・・・・・・・・・・・・・・・・

龍之介の沈黙の圧力が伊吹にかかる

「俺の事、避けてるか?」

「いいえ・・・・ただ、忙しいじゃないですか・・・最近、組も。組長は抜けちゃいけませんよ」

「組長の誘いは・・・受けたほうがええぞ」

何時の間にか、静かな圧力を身につけた龍之介・・・

「・・・判りました・・」

苦笑する伊吹の傍で、龍之介は高らかに笑う。

「たまには、ゆっくりとまったりしよう」

たまに・・・ですか?

まったりするんですか・・・本当に?

?が伊吹の脳裏に飛び交う

「口実がないと、なかなか二人きりになれんやろ?」

ふっ・・・

伊吹から笑みが漏れる

「そうですね・・」

伊吹は立ち上がる

「はな、今夜は南原と飲みます。」

「何でそうなる!」

叫ぶ龍之介の声を背に、伊吹は笑いながら言う

「卒業式です、卒業式。鬼頭で飲みますから、組長もどうぞ」

部屋を出てゆく伊吹を追いかける龍之介。

「でも、まあ、南原の一件はコレでカタが付いたかなあ・・・」

「一安心ですか?」

廊下を歩きつつ、伊吹は龍之介を振り返る

「別に・・南原なんか、気にして無いし・・・」

そっぽを向きつつ、そう言う龍之介の姿に笑いがこみ上げる。

(可愛い・・・あかん。可愛すぎる〜!!!)

心中、萌え死にしそうな伊吹は、それでも平常心を保つ。

(朝からこんなに可愛いのは反則やなあ・・・)

肩を震わせて笑う伊吹の後姿に、怪訝な顔で腕を組む龍之介。

「おい!」

いつものように鬼頭組の一日が始まる。

 

 

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