兄弟 2

 

 「どうですか?新婚生活は?」

少しワインを飲んで、伊吹はそう切り出す

「結婚前よりシックリしますねえ・・早く一緒になるべきでした」

ふうん・・・

伊吹は頷く

「お義兄さんのとこは、波乱万丈だったと聞きましたが・・・」

「しかたないでしょうね・・・よそとチョット違いますから」

拓海は伊吹の言葉にため息をつく

今でも、龍之介を挟んで聡子と伊吹は両立している。均等を保ち続けているが、その苦悩と努力はいかほどか。

「僕達、一度、二人で夜通し飲んだ事あるんですよ。まだお義兄さんの記憶の無い時に」

「そうですか・・・」

記憶喪失中の記憶はやはり無い・・・・

「なんやかんや言いながら、鬼頭さんていい人ですよね」

拓海は笑いながらそう言う。

「先生に何処か似てますよ」

伊吹は拓海に昔の龍之介を見る

「昔の・・・鬼頭さんにですか?」

ええ・・・・

と頷きつつグラスを傾ける

「実は・・・今も中身は、全然変わって無いんですけどね」

「二人っきりの時は・・・でしょう?」

ふふふふ・・・

拓海の突っ込みに伊吹は含み笑いをする

拓海は時々、龍之介と伊吹を見ていて切なくなるときがある

この二人が、男女間で夫婦だったなら、どんなに幸せなカップルだったかわからない。

報われない仲・・・・

そんな十字架さえ越えてしまっている・・・・

 

「紀子はどうですか?」

自分より長く、紀子の傍にいた拓海。自分より紀子を理解している拓海。

伊吹はそんな拓海に紀子のことを訊いてみる

「妹みたいだと思えば、お袋みたいでもあり・・・不思議ですよ、彼女。」

「女には見えへんのですか?」

伊吹が突っ込む

「女だと思ったら拒絶してたでしょうね。女性不信に陥っていたから。」

紀子からチラッと聞いたことがある

拓海は医大生時代、結婚前提で付き合っていた彼女にふられた過去があると・・・

「世の中の女は、金持ちで将来有望な男しか相手にしないんだ・・・なんて拗ねてた時もあったし。」

伊吹は頷きつつ、拓海のグラスにワインを注ぐ

「だって・・・結婚を約束してて、週末通っていた彼女がですよ、僕が大学病院蹴った事知ると、

とたんに別れるとか言い出して・・・3ヶ月後には大学病院に入った僕の親友と結婚してるんですよ。

信じられます?僕は彼女が”花園拓海”と言う人間を愛していてくれていると思ってました。でも違ったんです。

彼女は貧乏医者の僕の事は愛してはいなかった・・・・」

だんだん、いつもの拓海の愚痴が出てきた。

「そんな事もあって、婚約したからって、簡単には深い仲にはなれなかったんですよ。鬼頭さんは、

しょっちゅうネタにするけど」

「先生も真面目な人ですね」

何処か自分と同じ匂いがすると、伊吹は感じていた

「お義兄さん程、貞操、堅くありませんけどね・・・」

(それは余計なお世話です・・・)

苦笑する伊吹・・・

「だから・・・紀ちゃんが、貧乏医者がいいって言ってくれた時、どれだけ嬉しかったか・・・」

紀子自身、大きな病院で、エリート医師に濡れ衣着せられて傷ついた身である。

地位や名誉に凝り固まったエリートにうんざりしている時に出会った、患者の事しか頭に無い貧乏医者は、

どれだけ彼女を癒した判らない・・・

「紀子が、先生を選んだ事は私の誇りですよ」

伊吹は拓海の手を取ってそう言う

「いいんですか?僕は貧乏ですよ?」

「腕は確かや無いですか?人格も問題ないし、浮気する可能性も無いし・・・婿としてはNO1ですよ」

伊吹のいない間、拓海は紀子の兄代わりだった・・・

伊吹は拓海に、感謝してもしきれない。

「それに、経済の事は心配ないですよ。パトロンいますしね・・・」

ははははは・・・・・

苦笑する拓海

「強い味方ですよね・・・」

「先生、気に入られてますしね・・・組長に。」

確かにチンピラ、暴力団関係のいちゃもんは、もう無いだろう

あの、鬼頭のカリスマの義弟になったのだから。

「まあ、パートの看護婦、二人雇える位の余裕は出来たし、感謝してますよ」

後の紀子の出産の事も考えて、看護婦も余裕を持たせた。

「お義兄さんに出会えて幸運でした」

ポツリと拓海は沈黙の後そう言った

「私こそ、先生に拾われんかったら、どうなってたか・・・」

まさに命の恩人・・・そして、妹に会わせてくれた・・・

 

ふ〜〜〜

拓海は大きくため息つきつつ、ソファーの背もたれに もたれかかる。

「お義兄さんはよく見ると、今も、茂宇瀬さんの時も変わってませんよ。中身は一緒ですね」

組中が、堅気の伊吹におののきつつも馴染んでいったのも、やはり核は一つだったからなのか・・・

まあ、人はそんなに極端には変わるものではないのかも知れない。

うわべだけでなく、その人の本質を見抜いた人には、違和感は余り無いのかも知れない

静かに眠りに付く義弟を、伊吹はソファーに横たわらせた。

何処か龍之介に似た面影に、微笑みつつ毛布をかけて、酒宴の後片付けを始める

妹を見つけただけでなく義弟まで出来た・・・

何故か不思議で、少し照れくさい。

龍之介がいて、紀子がいて・・・拓海がいて・・・

伊吹は、今までで今が最高に幸せなのかも知れないと思った。

 

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