兄弟 1

 

 11月になって、花園医院は看護婦も2人新しく雇い、新装開業した。

その日の夕食は拓海のおごりで、伊吹と龍之介は招待された。

「すみませんね〜ファミレスで。ホント貧乏は困ります。」

奥の席を取って、先に拓海は来ていた。

「無理せんでええんですよ・・・」

さすがに龍之介も遠慮してしまう。

「昼間、来てくださればよかったのに・・・」

昼間、病院でささやかながら、新装祝いのパーティーをした。

「やくざがそんなとこに顔出すもんとちゃいますから」

拓海の向かい側に、伊吹と並んで座ると龍之介は笑う。

「出資者が出席しないで、どうするんですか?」

拓海は不服そうだが、やはり、そういうところは気にするのだ・・・

「それより・・・紀子は?」

伊吹はさっきから、疑問に思っていたことを訊く

「なんか・・・紅一点を気にして、辞退されました」

「旦那のおらん間に、ハネ伸ばしてるんとちゃいますか?」

はははは・・・龍之介の言葉に拓海は笑う

「まあ・・・紀ちゃんも、たまには一人でのんびりしないと・・・」

「まだ新婚でしょう?離れ離れで寂しゅうないんですか?」

伊吹が突っ込む

「僕とこは、ぼちぼちですから・・・お義兄さんとこは、どうかわかりませんが・・・」

やんわり棘を刺されてムキになる龍之介

「ウチは倦怠期がないばかりか、まだ新婚ですから」

はははははは・・・・

同時に苦笑する伊吹と拓海。

 

「それより、式以来、会うの初めてですけど、新婚生活はどないですか?」

セットメニューが運ばれてくる中、龍之介はふと思い出したように言う

「僕たちは、もともと夫婦みたいでしたから・・・そんなに気負うこともなく・・」

緊張感のない笑いで答える拓海に、龍之介は渇を入れる

「先生、そんな色気の無いことでどうします!」

まあまあ・・・・

伊吹が見るに見かねて制する

「先生のところは自然体が売りなんで・・・それでええでしょう?」

何の問題も、波乱も、破局さえ無縁なカップル・・・

「本当に・・鬼頭さんて、情熱的ですよね・・・見習わなくっちゃ」

ニコニコしてはいるが、イヤミっぽい・・・

「・・・・何か・・・聞いたんですか?紀子から?」

伊吹は恐る恐る訊いてみる

「いいえ・・・大学時代は、今とは別人のように可愛かったとか・・・いろいろ・・」

げっ・・・・・

極端に嫌な顔をする龍之介に、伊吹は耳打ちする

「島津の兄さんですよ・・・」

訊かなくても判る・・・おそらくアノ事だ・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

はははははは・・・・・

沈黙の後、3人は顔を見合わせて笑う

様々な思惑を心に秘めて、それぞれはお互いにイタイところに触れる事を辞めた。

そして静かに食事を始める・・・・

 

 

「今日はご馳走様でした」

拓海にそういって、龍之介は携帯を取り出す。

「組長?」

「高坂か?ファミレスにおるから迎えに来い」

携帯で、高坂に迎えに来させることに疑問の拓海

「伊吹さんの車で帰らないんですか?」

「ここで解散しましょう。方角違うし」

「構いませんよ、私は。鬼頭によってから帰っても・・・」

寂しい思いになる伊吹

「先生と一緒に帰ったらええ」

「先生も車で来てるのにですか・・・」

一緒に乗って帰るのではなく、車2台、連なって帰るのに・・・・

「とにかく今日は帰れ。」

そこに高坂が現れ、龍之介は去ってゆく・・・

「私らも、帰りましょう・・・」

残された伊吹も、そう呟いて駐車場に行く。拓海はその後ろ姿に続く。

「2次会しませんか?」

後ろから追いついた拓海が伊吹にそういう

「お義兄さんとこで飲みましょう!」

ふっ・・・・

伊吹は笑う。龍之介に去られて部屋で一人淋しい伊吹を、精一杯 慰労しようとしているのだ。

「ちょうど、貰い物のワインあるし・・・」

「そしたら・・つまみは何処かに寄って買いましょうか・・・」

その気持ちがありがたくて口元が緩む

 

マンションに帰って、つまみを準備して待っていると、拓海が入ってきた。

「紀ちゃん寝ちゃってて、連れてこれませんでした」

と自分ん家から持ってきたワインを持って、ダイニングに入ってくる。

「ビデオで映画2本くらい見て、そのままリビングでうたた寝してるんですよ〜ベッドに運んで来ましたけど、

ほんと・・・子供みたいなんだから」

拓海が不在でも、それなりに一人で楽しんでいるような紀子は逞しい

「あ、言っときますが、僕、酒 強くないですよ。」

「そうですね・・・お互い飲みすぎには注意しましょう・・・」

伊吹も二日酔いには要注意なのだ・・・

「リビングで飲みましょう・・・」

つまみの皿とグラス、ワインをトレイに乗せて、伊吹は拓海を振返った。

 

 

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