妹の結婚 5

 

島津の仲人の下、式は滞りなく行われ、立派な式となった。

 

新婚旅行に行く新郎、新婦を出迎える人達がロビーに溢れていた。

「あ、もしかして・・花園医院にいた介護士さんやないですか?」

商店街の魚屋夫婦が声をかける・・・

「私をご存知ですか・・・」

「見違えたわ・・何か、別人みたいですねえ・・」

記憶喪失中の事は、伊吹は覚えていない・・・

「そのたびはお世話になりました」

「記憶、戻ったんですって・・・それで、紀ちゃんと兄妹やったんですって?世間は狭いねえ・・・」

そんな話をしていると患者の家族が押し寄せてくる・・・

「え?あの茂宇瀬さん?判らんかったわ・・」

はあ・・・・

「あの時の記憶無いの?」

「はい」

がっかりする皆・・・

「でも拓海先生、余計なもん拾ってくるって有名やけど、紀ちゃんのお兄さん拾うてくるやなんて、

たまには、やるねえ・・・」

はははは・・・・・

笑いものにされている新郎、花園拓海・・・・

「でも、ホンマにええ事尽くめやね・・・拓海先生は、紀ちゃんと結婚するし、生き別れのお兄さんは見つかるし、

病院は改築されるし・・・」

記憶の無い間、この人たちの中にいたのか・・・としみじみ思う伊吹・・・

 

「お兄ちゃん・・・」

後ろから紀子と拓海が近づいてくる・・・

兄達と一緒に東京に行く事になっている。

「おめでとう、気ぃつけて行って来い」

うん・・・

伊吹の言葉に頷く紀子

「行って来ます」

拓海は頭を下げると伊吹を見上げる

「先生、もう、結婚したんやから、ぐたぐた言わんとホテルに泊まってくださいね」

龍之介が横から口を挟み、伊吹に苦笑される・・・

「紀子さん、お幸せに・・・」

聡子がそっと紀子の手をとる。

周りからも、口々に祝いの言葉が飛び交う中、二人は兄夫婦の車で東京にむかった・・・・

 

 

「終わったな・・・・」

帰りの車の中、龍之介は隣に座る伊吹を見る。

「お袋にも、見せてやりたかったですね。」

ぼそりとそんな事を言う伊吹に、龍之介は胸が締め付けられる。

 

「でも、あの先生大丈夫か?」

思い出したように龍之介は呟く・・・

「何がです?」

「ちゃんとデキるんかな・・・」

「何ですか?」

龍之介の心配事が何か、判らない伊吹・・・

「新婚初夜に、もめて離婚になるケース、多いぞ・・・」

「組長!」

伊吹に睨まれ、龍之介は自粛する。

「でも、紀子さん綺麗でしたね」

聡子は本当に嬉しそうだ。

「私も結婚したくなりましたわ・・」

運転席の高坂が呟く・・・

「相手おるんかい」

「・・・・・・・・・・・・・」

鋭い龍之介の突っ込みに、高坂は再起不能に陥った・・・・

「高坂さんにも現れますよ・・・運命の人が」

聡子がフォローする・・・

「それはそうと、親父は信さんとこか?」

「はい。一緒に食事してから、帰ってこられると仰ってました」

ふうん・・・

今の哲三には、昔のことを語り合える人が、島津しかいない。

「信さんにはずうっと、鬼頭と関わってて欲しいなあ・・・」

当たり前のように存在した島津のありがたさが身にしみる・・・

それは伊吹も、聡子も同じ思いだった。

 

 

 

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