妹の結婚 4

 

慌しくその日はやって来た。

紀子には由布子夫人が付き添い、島津は段取りに忙しい、新郎の拓海には龍之介が付き添う。

東京から来た拓海の親戚を伊吹が一身に引き受けていた。

 

準備の出来た拓海は兄達に挨拶する為ロビーに出てきた。

「組長・・・」

伊吹に呼ばれて振り返ると、兄二人と妻、息子達に加え叔父夫婦と娘達、叔母夫婦と息子娘・・と団体で来ていた。

「拓海さん、ステキ〜タキシードよく似合うわ!白衣姿もいいけど・・」

拓也の妻、蔦江はおっとりと微笑む。

人のよさそうな40代の貴婦人・・・オバサンとは口が裂けても呼べない・・・

「義姉さん・・七五三みたいじゃないですか?僕?」

昔誰かが言っていたような事を言う・・・

「いいえ。蔦江義姉様、私も拓海さんは王子様タイプだからタキシードは似合うだろうと思っていましたわ」

拓郎の妻、園香も負けず劣らずのおっとりでそう言う。

こういう和風な女性の中にいると、なんとなくホッとする龍之介・・・

「これこれ・・はしゃぐのはそれくらいにして・・・」

ゆったりまったりではあるが、締めるところは締める拓也

「組長、こちら、花園頭取です。 頭取、ウチの8代目です」

伊吹の言葉に拓也は急に顔を明るく輝かせる

「お噂はかねがね・・・先代様とはご贔屓にさせていただいておりました。引き続きご贔屓の程を・・・」

「いいえ、こちらこそ。まだ若輩者ですから宜しくご教示ください」

お互い頭を下げ挨拶すると次は次男拓郎・・・

「二番目のお兄さんです」

「弟がお世話になっています・・・」

こちらも愛想がすこぶるいい

まったりな花園ファミリーに囲まれ、龍之介は内心、和んでいる

親戚一同を新婦の控え室に案内した後、兄夫婦4人と拓海、龍之介、伊吹は一階のカフエに向かう

「8代目にお会いできてよかったです・・・ご立派な息子さんをお持ちで哲三さんも安心ですね」

「いいえ・・まだ不束者です。」

「藤島さんが8代目を教育されたとお聞きしましたが。お年はそんなに違わないのに・・」

蔦江が伊吹に関心を示してくる

「10違いです。教育というても・・・お世話するくらいしか・・」

伊吹も社交スマイルで対応する

「確か・・何年か前に哲三さんと東京に一緒に来られてましたよね。大学の受験の為でしたか・・・」

ああ・・・拓也の言葉に龍之介は頷く。

あの時。鬼頭商事の件で上京する哲三と、たまたま受験の日が重なって少し余裕を持って龍之介は上京した。

哲三に同行して銀行の頭取にも会った気がする・・・

「あの時と、見違えるほど大人になられたので、別人かと思いました・・・」

「あの時は、おぼこかったでしょう?」

カフェに入り席に着く一同

「なんていうか・・・鬼頭組というイメージとは、かけ離れていて・・・なのに今、こんなにご立派なのは やはり、

藤島さんの教育の賜物ですか?」

ははははは・・・・

龍之介は笑う

「業界内では”藤島はへタレのぼんを立派に襲名させた”と、もっぱらの噂です」

スマートで自信たっぷり・・・・

影で、やきもち焼いていたあの龍之介は嘘のようだ・・・

(龍さん・・・二重人格・・・)

伊吹は苦笑しながら、皆のコーヒーをオーダーする。

「病院の建て直しも、鬼頭さんが援助してくださったんですね」

拓郎がすまなさそうに言う

「親父の病院を継ぐって聞かないんです、こいつは。大学病院にいれば、どれだけ楽かわからないのに、バカですよ・・」

そういいつつも、そんな弟が可愛くてたまらないといった表情をする・・・

「そういうバカさに惚れたんです。私は」

さらりと龍之介も言ってのける

「まあ、ウチの大事な側近の命の恩人ですし・・・それくらいは。」

ちらと伊吹を見る龍之介

「そうそう・・藤島さん、鉄砲で撃たれたんですって・・・大丈夫ですか・・・怖いですわねえ・・」

頬に手を当て泣きそうな顔で言う園香を自分とは別の世界の住人だと知る龍之介・・・

彼女は、こういったやくざの出入りや、闘争とは一生無縁に生きて行くのだろう。

しかし、我が事のように心配してくれる彼女はいい人だと思う。

「拓海先生の腕がいいので、すっかりようなりました」

伊吹は笑顔でそう答える

コーヒーを飲むと新婦が気になる兄嫁達は紀子の所に行きたがった

「拓海さん、まだドレス姿の紀子さん見てないんでしょ?」

蔦江が廊下を歩きつつ訊く

「はい、まだ・・」

「私も、もう一度着てみたいわ・・・」

園香がはしゃぐのを拓郎が止める

「辞めなさい、年甲斐も無く・・・」

「失礼ねえ・・・」

ほほほほ・・・・・

悩みの欠片も無い幸せな夫婦だった・・・

 

新婦待機室のドアを開けると由布子夫人に付き添われた紀子が鏡の前で座っていた

「わあ・・・綺麗・・・」

義姉達に駆け寄られて少し驚く紀子・・・

いまだ女学生のようなオバサンたちである・・・

「何か・・・いよいよって感じですね・・」

緊張する拓海

「あっという間に終わりますよ」

経験者の龍之介は拓海の肩に手を置いてそう言う。

問題はこの後の永い歳月・・・・末永く幸せに暮らせるがどうか・・・

「拓海先生、紀子を宜しくお願いします」

改めて伊吹に挨拶されて拓海は戸惑う

「いえ・・僕こそ・・・大事な妹さんを・・・」

「先生を選んだ紀子の目を信じています。」

頷く拓海の笑顔は今までとは違う、泣きそうな切ない笑顔だった。

「先生、私が恋愛の相談にのってあげたんですよねぇ〜」

脇から龍之介が恩を売ってくる

「医者バカ とけなされつつねえ・・・」

「決める時は決めるんです。ふにゃふにゃしてたらあきません」

ほお〜〜〜〜

伊吹はあきれる・・・

「組長も大きゅうなりましたね・・・」

「おい!」

静かに威嚇する龍之介を見て、伊吹は大笑いする・・・

 

本当に・・・伊吹を見失って暗闇にいたあの頃は嘘のようだ

伊吹との再会、紀子や拓海との出会い・・・

闇を向けると広がって行く世界に今は安らぎを感じる。

 

 

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