妹の結婚 3

 

結婚指環が出来てきたと連絡が来て、伊吹は拓海と紀子を連れて、留美子の店に向かう。

外回りのついでだったので、龍之介も同行していた。

「サイズの最終確認してもらいますから・・・すみませんね、わざわざ。」

伊吹は拓海を振り返る・・・

「いいえ、お手数おかけします。本来は、こういうこと僕がするべきなんでしょ?」

相変わらず緊張感の無い笑顔だった。

「先生は医者しかでけへんから、医者しててください」

龍之介は、いつかの誰かのような事を言い、紀子は苦笑していた。

「医者ちゅうのは、誰でもなれるモンとちゃいますよ、組長。さらに拓海先生は内科も神経外科も

整形外科もしはるやないですか・・・・」

伊吹は拓海の味方である。

「そんな雑多な医者、マンガの中だけかと思てたけどな〜」

これは龍之介式愛情表現・・・・

「ぽやぽやしてても頭脳明晰なんですよ、拓海さんは」

紀子は誇らしげである。

まるで、昔の、何処かの誰かみたいだと伊吹は思う。

バカ力で、歳の割には幼くて、愛想のいい、お人よし・・・

ぼーっとしているわりには、学校の成績はトップ・・・

だから、伊吹は拓海を気に入っている。

「おい!」

突然、龍之介の突込みが入る

「いつかの誰かみたい・・・とか思うてるやろ?」

さすがに鋭い

「いいえ・・」

引きつりつつ、否定する伊吹の横で、紀子は首をかしげる

「そんな人、いたの?他に?」

兄妹は好みが似ているらしい。

 

そうこうするうちに宝石店、”アンジェリーク”に到着・・・

とにかく、留美子から指環を受け取り装着してみる。

「ぴったり〜すご〜い」

紀子は感動している。

(サイズ計ったんだから、ぴったりでなきゃ駄目でしょ・・・)

心の中で拓海は突っ込む。

「俺ら、相手の寝てる隙にサイズ計って指環作ったけど、そこそこぴったりやんなあ・・・」

龍之介は伊吹に耳打ちし、伊吹は苦笑する・・・

本当に・・・あんな計り方で、よくも指にあったものだと今更ながらに思う。

 

「やあ・・・待ったか?」

いきなり島津が入ってきた。リングサイズ確認後、預かってもらう手筈になっていたのだ。

「あら〜島津!元気〜?」

留美子は懐かしそうに笑った

「お局、相変わらず美人やなあ」

相変わらずの調子のよさにあきれて、留美子は髪をかきあげる

「口、上手いわね〜この詐欺師!」

はははははは・・・

笑いあう二人に龍之介は思いっきり、ひいてしまう。

 

「あの二人、どういう関係や?」

伊吹に小さな声で尋ねる

「組長の思うてはるような仲とは、ちゃいます」

 

「指環、OKなら持って行くぞ」

とケースを袂にしまい、島津は拓海の肩を叩く

「晴れ舞台しっかり務めてや」

「はい、宜しくお願いいたします」

頭を下げる拓海を見て、留美子は微笑む。

「なあに?仲人さん?」

「おう、藤島の妹さんやからな、ワシがやらんと。ほな、お先」

急いで去る島津を名残惜しげに、留美子は見送る

「お茶でもしていけばいいのに・・・」

「春日、俺らもこれで・・・」

龍之介がいとまごいをする

「寂しいわねえ。ところで・・・私の見立てバッチリでしょ?」

え・・・・

と顔を上げる龍之介の耳に留美子はささやく

「ネクタイピン、よく似合ってるわ。ずっとつけてるの?”いらん”とかいいながら嬉しいでしょ?本当は。」

あ・・・・・

そういう指摘を受けて、真っ赤になる龍之介。

完全に弄ばれている・・・

「いいよねえ藤島って。私も、もう少し若かったらツバメにしたのになあ・・・」

げっ・・・ツバメ・・・・

赤い顔が真っ青になる・・・・

「盗らないから安心して」

苦手だ・・・この人・・・龍之介は半泣きになる。

いくらクールビューティーの誉れ高い氷の刃でも、まだ若輩者・・・極道界の女帝に敵うはずもない。

「組長?」

何にも知らない伊吹が、龍之介の百面相に不信がって近づいてくる。

「春日様、ウチの組長にちょっかい出したら、承知しませんよ」

冗談半分で、伊吹は留美子を睨む。

「まあ・・・心配なの〜可愛いね。でも、私は藤島の方が好みだから」

さらに青ざめる龍之介

あろう事か・・・留美子はショーケースから身を乗り出し、伊吹の頬にキスしたのだ・・・

「8代目・・怒ってる〜」

といいつつ楽しんでいる女帝・・・

「いえ。ウチの側近、よろしくお引き立てのほどを・・」

なけなしのプライドで微笑みつつ、伊吹を連れて脱出する龍之介

何が起こっているのかわからないまま、紀子と拓海はそれに続く。

残された留美子は肩を震わせて笑う・・・

(やはり、龍ちゃんて、可愛いよなぁ・・・)

実は彼女は島津と、いい勝負な有名なおちょくりだったりする・・・

 

 

「龍さん・・・」

あれから紀子たちと別れて、伊吹のマンションに帰り、夕食をとり、沐浴後のお茶会まで龍之介は無言だった

「いい加減にしてください。春日様に何言われたんですか?」

「それが問題と違うやろ!」

はあ・・・

「お前ら、前からあんな事してたんか?」

「ナンですか・・・」

・・・・・・・

再び貝の口になった龍之介

留美子が絡むと、どうしてナーバスになるのか・・・そう考えて、伊吹は彼女だけでない事に気付く。

南原から始まり、岩崎、高坂、紀子まで・・・つまり、やきもちやき。

「お前も、俺の前で他の女とキスするとは、どういう了見や?不義密通で断裁するぞ」

ああ・・・あれか・・・

伊吹はやっと思い出してポンと手を打つ。

「あれは挨拶です」

「ほう・・・」

・・・・・・・

(何かコワイ・・・)

「ほな、俺にも毎朝、鬼頭でその挨拶、してもらおうか」

「判りました・・・なんなら、組のもん全員にしましょうか・・・」

だあ〜〜!!!

「おちょくっとんかい!」

とうとう切れた龍之介に、伊吹はひるむことなく冷静に語り出す。

「春日様は私にとっては、お袋みたいな存在なんです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「えらい、色っぽいお袋やな」

「そんな目では見てませんから」

龍之介のやきもちは死ぬまで治らないだろう。

「ほな、私も言わせて貰いますけど、この前の淀川の婚約式の時、ファンクラブの姐さん達と腕組んで

写真撮ってたの誰ですか?」

「あう・・・」

反撃されて言葉も出ない

「それだけじゃないでしょ?かすかに、龍さんの左頬に口紅ついてたの、私が知らんとでも思ってましたか?」

確かに、あの時、よってたかって頬にキスされた、ついた口紅は綺麗に落としたはずだったのに・・・

「ていうか・・・お前、酔っ払ってて、そんなとこチェックする余裕があったんか!」

形勢がいきなり逆転した。

「自分のこと棚に上げて、酷いでしょう?」

結構、伊吹はチェックしていて、根に持っていることが判明した。

「それでも、一々そんな事言うたら嫌われるからスルーしてたのに・・・」

はあ・・・・

勢いをそがれた龍之介はうなだれる。

「そりゃ・・・龍さんが浮気しても、私は何も言えん立場ですよ・・・捨てられたらそれっきり・・・」

おい・・・・

いきなり落ち込む伊吹に、龍之介は唖然とする。

「にしても・・・」

「すまん・・・判った。機嫌直せ・・・」

どうなってるんだ・・・龍之介危機一髪

「つくづく・・・囲われもんは、つらいなあて思いました・・・」

妹の結婚で色々、伊吹も感じるものがあるのだろう。

法的婚姻関係を結べない自分達が浮き彫りにされたりして・・・

「いっそ、公表するか?俺らの関係を。結婚式モドキして」

「そんなこと普通しませんよ」

そう、伊吹の事は隠しているわけではない

一般的に組長が愛人を連れ歩けば人目につき知れ渡るだけ。

わざわざ言って廻るものなどいない

伊吹の場合、いくら龍之介が連れて歩いても側近なので、バレないだけだ。

「もしかして、羨ましいのか?妹が?」

「少し・・・」

「そうか〜お前に花嫁衣裳着せてやれんと・・・すまん・・・」

「龍さん!」

話がずれている。

「それでも、ムカつくもんはどうしょうもないし、ちゃうか?」

「そうですね」

なんとなくそこに落ち着く

「愛情の現われと言う事やろ・・」

はあ・・・・

伊吹はため息をつく

「私ら、進歩無いですね。」

「新婚やし〜まだ。倦怠期なんか皆無や」

悪く言えば幼稚・・・・

「でも、お前は正直になってきたな。最近」

「記憶喪失の後遺症でしょうか・・・」

何処か、感情が開放されつつあるのではないかと思う龍之介・・・

「俺が頼れる奴やと、認識してきたんやろ〜」

ふふふふふ・・・・・・・・

含んだ笑いをする伊吹に、眉間にシワを寄せ睨みつける龍之介

「何がおかしい!」

「いえ、その通りです。最近甘えが出てきて・・・」

「甘えろ!もっと甘えろ。なんなら腕枕したろうか?」

ふふふふふふ・・・・・

笑いが止まらない伊吹・・・

「腕、しびれますよ・・・」

「お前に出来て、俺に出来ん訳無いやろ」

「私のは年期が入ってますから」

喧嘩しても喧嘩にならない・・・そんな間柄。一番近い人。愛する分身。

それを望んで、19歳の時にとった選択は違いではない。

でも・・・・

と龍之介は伊吹を見る

「お前はどうかな・・・」

自分を導いてきた伊吹が、あの時からは、自分についてくる者になった。

「お前はそれでええんか」

「龍さんのためなら、たとえ火の中、水の中」

そういって笑ってくれる、最愛の恋人・・・・

「そんなとこに行かんでええから、寝室に行け」

はいはい・・・伊吹は笑って龍之介を抱えあげる

「ご機嫌は治りましたか?」

「別に、怒ってないし・・・」

そう・・・拗ねただけ・・・伊吹は笑う。

 

 

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