妹の結婚 2

 

 午前のみの診療を終えてから、拓海は自宅のアパートから、新居に荷物を少しずつ移していた。

電化製品は、使えるものはそのまま持ってきて使い、家具は東京にいる兄から、新しく贈られてきた。

それほど持ち物も多くなく、午後の空いた時間ちょくちょく引っ越していた。

 

「拓海さん、もう全部引っ越したんなら、アパート帰らなくてここで暮らしたら?」

本棚に本をしまい終えた拓海に、紀子はオレンジジュースを運んでくる。

「結婚までは同居は駄目でしょ」

「何かそういう、がちがちなところ、お兄ちゃんそっくりだね」

「そうなの?」

グラスを手に取り、拓海は振り返る。

「鬼頭さん、苦労してるよ・・結構。」

へ〜〜〜〜

それは初耳だった

「お兄ちゃんに普段着は無いんだって。寝るとき以外は家の中もあの格好で、寝るときだけパジャマ。

服装崩さない人で有名なんだって」

結婚式の準備で、島津と一緒にいる事が多かった紀子は、色々と伊吹の情報を仕入れたらしい。

「寝室以外では絶対いちゃつかないし。」

はあ・・・・

目が点になる拓海。

「それも色々あったらしいのよ、初夜の次の朝、いきなり鬼頭さんのお父さんがやって来て、ばれちゃったとか〜」

実兄の物凄い話を平気でしている紀子が怖い

「・・・踏み込まれたの・・・それ・・」

「お兄ちゃんがそんなヘマするわけ無いじゃない?ちゃんとリビングに出たわよ。でもね、鬼頭さんの寝室から

鍵開けて出てきたらアヤシイじゃない?」

「・・・いろいろ・・・聞いたんだ・・。」

「最高に面白いのはね〜鬼頭さんに襲いかかられたお兄ちゃんが、それを振り切って、逃げ切った話・・・」

コワイよ・・・それ・・・

拓海はひいてしまった・・・

「紀ちゃん、人の話で遊ぶのは辞めようね・・」

伊吹がモラリストなのは判った・・・

そして・・・龍之介はクールだが、強引なのだと理解する拓海。

「でも、聞けば聞くほど私、あの二人がいとおしくなるの。」

さきほどまで笑っていた紀子が、しんみりして言う。

「色んな試練や、障害を乗り越えてここにいるんだなあ・・って・・」

ああ・・・

紀子の言いたかった事が判った。

「大好きなお兄ちゃん、盗られて悔しいけど、鬼頭さんなら許す」

「僕は大丈夫かなあ・・・」

「え?」

「大事な妹、持って行くんだから、伊吹さんに、どう思われてるか・・・」

ふと不安になる

「拓海さんは、お兄ちゃんの命の恩人なんだから、文句なしでしょ?鬼頭の8代目にも恩を売る身。無敵だね」

はははは・・・・

苦笑する外科医・・・

結婚式は一週間後に迫っていた

 

「お昼食べよ」

紀子は立ち上がりキッチンに向かう。

伊吹は、拓海の人生で一番大きな拾い物だったかも知れないと思う。

紀子が一番会いたがっていた人に会わせる事が出来たのだから・・

鬼頭龍之介・・・彼との出会いも拓海には大きい。

 

「拓海さん!」

我に返り拓海は立ち上がる

拓海も、龍之介と伊吹が、とても いとおしく、大好きなのだ。

 

「結婚式まで、拓海さんは、何にも無い部屋に帰って寝るの?」

食事はここでするしかない・・・

冷やしそうめんを間に置いて、紀子は拓海に訊く

「もう、寝るだけの部屋だね、あそこは・・・」

「引き払っちゃえ〜」

「今は、お兄さんと水入らずがいいでしょ?」

あはははは・・・

紀子は大笑いする

「拓海さんがいるからって、疎遠になるような事無いし、大丈夫」

(まあ・・・疎遠になっちゃいけないしね・・・)

頷きつつ、そうめんをすする拓海

「午後からの予定は?」

「無いけど」

「式の打ち合わせに、一緒に出てくれる?」

島津が昼過ぎに迎えに来る予定になっていた。

「もちろん行きます。今まで任せっきりでごめんね」

相変わらずのニコニコ顔でそう言う拓海が、紀子には可愛くて仕方ない。

「拓海さんは、医者しか出来ないんだから、医者だけしてたらいいよ」

「・・・誰にでも出来るもんじゃないんだよ・・・医者って・・・」

拗ねた拓海の頭を撫でてなだめる紀子は、実はその事を一番よく知っていた。

特に、内科も、小児科も、神経外科も、整形外科も出来るなど・・・・ほとんど漫画でしかない。

だから・・ほかの事に少しくらい不器用でも、自分が補ってあげようと思う。

「紀ちゃん、迷ってない?」

いきなり真剣な顔で聞かれて、紀子は首をかしげる。

「マリッジ・ブルーてあるでしょ?本当に、この人でいいのかなあ・・とか。女の人はそんな事、考えるっていうから」

「拓海さん逃したら、私を貰ってくれる人なんか、永遠に出てこないよ」

そう言ってもらえる自分は果報者だと思う拓海・・・

「拓海さんは?」

「僕も同じ。」

そう、よかった・・・・

紀子は食べ終えた食器を片付けると、拓海は紀子の隣で食器を洗い始める。

「ウチは共働きだから、家事は共同です」

何時まで続くやら・・・・こっそり、そう思いつつ笑う紀子。

「結婚しても、変わらず一緒なんだね。私達」

はははは・・・

大笑いしつつ、拓海は紀子の間違いを指摘する

「ずっと一緒にいるために、結婚するんでしょ?」

そうか・・・・

 

10年後も20年後も、50年後も一緒にいたい人・・・・

 

 

 TOP          NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system