一千夜 3

 

 留美子と別れて、花園医院付近のレストランで昼食をとることにした。

「お兄ちゃんありがとうね〜負担かけてごめんね・・・」

「親代わりやから、これくらい・・・それより、先生側で結婚式の費用負担して下さるんで助かりますわ。」

拓海は申し訳なさげに笑う。

「ひっそりするつもりだったのに・・ホテルで式する事になってしまって・・」

「お兄さん達、えらい喜んではりますからね。先生の結婚」

東京で会った時の、花園兄達のあの波動が思い出される

「奇跡みたいなもんだって・・・もうお祭り騒ぎです」

どんなんや・・・

伊吹の横で無言で突っ込む龍之介

「で、やくざの妹というのもスルーしたんか?」

龍之介が口を挟む

「鬼頭商事と取引ありましてね、お兄さんとこの銀行。先代の事訊かれました」

「親父とも知り合いか・・・」

「組長も式のときは挨拶せなあきませんね。まあ、先代をご存知ならヘンな偏見はないかと・・・」

「まあな」

龍之介から見ても哲三の印象は悪くないだろうと察しがつく。

ガラが悪いわけでも人相が悪いわけでもない むしろ、穏やかである。

器の大きさは伺えるが、堅気に対しては温厚である。

「親父の人徳か・・」

「まあ、花園さんも、それだけ大物と言う事ですか・・・」

あの愛想のよさで、あの天然で、トップに上り詰めるとは半端では無いだろう。

 

料理が来る頃、席を外していた紀子が帰ってきた。

「お兄ちゃん、拓海さんと私から鬼頭さんに。忘れず持って帰ってね」

と伊吹にケーキの箱を渡す

「紀子・・・」

「貧乏だからケーキしか買えないけどね。ここで、ロウソクつけてお祝いはあえてしないよ。

後で二人っきりでさせてあげます」

そんな二人を見つめつつ、プレゼントを受け取るのも悪くないなと思う龍之介・・・・・

 

 

昼食後、紀子たちと別れてマンションに向かう伊吹と龍之介。

「何処も行かんでええんですか?」

「今更、大の男が水族館もないやろ・・・」

はははは・・・・

懐かしさに爆笑する伊吹。

「プリクラもないですよね〜」

「おい!」

助手席で、睨みを聞かせて、突っ込む龍之介。

水族館デートは遠い昔のように思える・・・・

「昼間から二人っきりは滅多にないから、無駄にしたらあかん」

「午前中、潰してすみませんでした」

「いや、いろいろ勉強になった。やはり、春日は大した女やなあ・・・」

純和風の母親に育てられた龍之介は、留美子のような社交的で華やかなタイプは苦手だった。

それに、見るからに”女”という雰囲気も近寄りがたい。

しかし、今日は留美子の内面に触れて、奥深い物を感じた・・・

「ああやって、強い振りしてるけど、か弱い女性なんですよ、あの方は。」

呟くように言う伊吹の言葉に、龍之介は眉をしかめる

「おい!お前ら、どういう関係や?まさかとは思うが・・春日と?あの歳まで女の1人もおらんのはおかしいと

思うてたが・・・・お前・・・ツバメやったんか・・・」

「組長!怒りますよ〜〜〜」

とうとう怒り出した伊吹が龍之介を睨む・・・

「すまん・・・」

 

そのまま無言で車はマンションに着き、二人は部屋に・・・・

「まだ何か?」

上着を脱いでハンガーにかけつつ、伊吹は龍之介を振り返る

「いや・・・」

浮かない顔で龍之介は上着を脱いで、伊吹に渡す。

「ずっと、そうしてる気ですか?」

龍之介の上着をハンガーにかけ、自分の物と一緒に寝室に持って入る伊吹について、龍之介も寝室に入る。

クローゼットにかけて、扉を閉めた伊吹は後ろの龍之介に微笑む

「いい加減、そのやきもちやき、何とかなりませんか?」

「10年の差は・・・大きいな」

はあ?

力なくベッドに腰掛ける龍之介を、伊吹は見つめる。

「お前の過去に何があっても、何も言う資格、俺には無いけど・・・」

はあぁ?

「信さんは、ああ言うてたけど・・・まさか28まで、全然何にも無しな訳ないもんな・・・」

「すみませんね。何も無くて・・・て言うか!おちょくられてるような気がするのは気のせいですか?」

「すまん・・・でも、俺はお前しかおらんかったのに、お前には南原も春日もいるし・・・」

ふうっ・・・・

伊吹はため息をつく

「そうですね。ぼんを育てる為に私は、女と付き合うことも出来んと、28まで何にも無しで来ましたから、

私の青春、弁償して下さい」

「俺のせいか・・」

どちらにしても落ち込む龍之介・・・

「そうですよ。龍さんがあんまり可愛いから、誰とも付き合う気なんかおこりませんでした」

 ああそうか・・・

龍之介は頷く

伊吹は龍之介の教育のために、学生時代クラスメイトと遊び回る事も無く、貴重な青春を費やしてきた・・

恋愛の一つも出来ないまま・・

「お前はそれでよかったんか?」

「龍さんほどの美人はおりませんでしたから・・・」

龍之介の前に跪いた伊吹は、そっと龍之介の頬に触れる

「33年間、私を独占しといて、そんな言い草は許せませんね・・」

「一生独占したい」

龍之介は伊吹の首に腕をかけて抱き寄せる。

「どうぞ」

5年前になされた妻問いは、何度も何度も繰り返される・・・

ともに過ごした、幾つもの夜を越えて、今再び未来に向かうために。

 

 

「・・・龍さん?」

首筋に抱きついたままの龍之介に不安になる伊吹。

「どうしました?」

「この体制で、どうやって押し倒すか考えてた・・・」

「い、いえ・・まだ、3時半ですけど・・」

「昼間ちゅうのは・・あかんか?」

「・・・・・・・・・」

「何とか言うてくれ・・・」

「・・・・・・・・」

「おい・・・」

 

 

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