一千夜 2

 

 お茶の時間が終わると、店のショーケースの前で留美子と紀子があれこれ指環を検討し始める。

「なるべくシンプルで引っ掛からないモノがいいんです・・・看護婦してるんで。」

留美子は頷く

「そう、で、婚約者さんは?」

「彼も・・・医者なんで・・・」

「じゃあ、平べったい表面に、イニシャルとかメッセージとかを彫るのはどう?ポージーリング風に。」

と留美子はカタログを出してきた。

「いいですね。オリジナルっぽくて・・」

「特注で彫ってあげるわ。えーと・・イニシャルは?・・・・」

 

 

「何か・・・私達、のけ者みたいですね・・・」

拓海が呟く・・・

というか・・・

伊吹と龍之介は付き添いだから、のけ者は拓海一人ではないかと思いつつも突っ込めない龍之介。

「こういうことは女の人の領域ですから、任せましょう」

伊吹はナイスなフォローをする。

「それより、組長、お誕生日ですから組長にも何かプレゼントしますよ。」

「いらん。」

拒否されて沈む伊吹・・・

「いつも、どうして・・・私に、プレゼントの一つもさせてくれないんでしょうねえ・・・」

「お前には、婚約指環を2つも貰うたから、充分や」

(婚約指環を2つも貰ったって・・・ナンだろう??)

拓海は首をかしげる・・・・

「時計とか・・・」

「成人式の祝いで、親父から貰うた」

「ネクタイピンありますか?」

「そんなん使わん」

「冠婚葬祭には要りますよ」

「お前はあるんか?」

ええ・・・・

頷きつつ伊吹ははっとする。

「え?!何時買うたんや?・・・貰たんか?」

誰かから貰ったという話も、買ったという話も聞いていないぞ・・・と思う龍之介。

「とにかくありますから!」

「南原か!あいつやな?後で、過去に南原から貰うた誕生日プレゼント、一つ残らず俺に見せろ。」

ははははは・・・・・

引きつる伊吹の横で、拓海は固唾を呑んで、それを見守っていた。

 

「藤島〜婚約者さんも来て」

その時、留美子が伊吹と拓海を呼んだ。

逃げるように留美子の傍に駆け寄る伊吹。

「オーダーメイドで至急作るから、待っててね。私とあんたの仲だし、大まけにまけとくわ。」

と請求書を出してきた。

「お願いします。」

と、カードを渡す伊吹。

店員は拓海の指のサイズを測り、記入する。

「で・・・ついでに、ネクタイピン、カフスとセットで見てください。」

あら・・・と留美子は顔を上げる

「自分の?」

「プレゼントなんですが・・」

留美子はあっという間に5.6種類見繕ってきた

「冠婚葬祭用なら真珠だけど・・・彼のイメージだとダイヤかな・・・でも、誕生石ならオパール。

どれがいい?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

言葉の無い伊吹。

後ろから龍之介がやって来た。

 「相手が誰か、わかってはる・・・」

「今日誕生日でしょ?8代目・・・」

伊吹の後ろの龍之介に聞く留美子

(何で知ってるんですか・・・)

龍之介も言葉をなくす

侮れない・・恐るべし星野留美子!

「8代目に選んでもらうのはどう?」

そういいつつ、留美子は勝手に龍之介に近づき、ネクタイにあれこれつけては様子を見ている。

「伊吹・・・」

なすがままになりつつ、伊吹に助けを求める龍之介・・・

「やはり、ダイヤかなあ・・・どう?」

伊吹に同意を求める留美子・・・

「いいですね。それ」

「でしょう?ダイヤのわりにお買い得よ。これも安くしとくから〜」

「いらんと言うのに・・・お前は・・・」

留美子は龍之介を制してささやく

「あげる楽しみ奪っちゃ駄目よ。」

やり取りするのは物質ではない。それにこめられた愛情だと・・・

そうか・・・

龍之介は笑う。

「それラッピングしてください」

伊吹の言葉に留美子は頷く。

今までモノにはこだわらなかった。欲しいのは伊吹だけだった・・・

しかし、確かに婚約指環を受け取った小学生時代、そして大学時代、結婚指環を送った大学時代・・・・

あの時の、なんともいえない感情は宝物だ。

(モノやないんか・・・贈られるのは心・・・)

今さら気付くなんて、自分でもあきれる。

欲しい物を訊かれて、いつも”ない”と答えていた自分は、なんと愛想の無い恋人か・・・

 

今日得たものはかなり大きかったと思ったりした。

 

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