繋がり 4

 

淀川に着いた南原は桃香を伴い、淀川組ご用達の宝石店に向かう。

「婚約指環なんかいらんのになあ・・・どうせ結婚指環するのに〜」

「そういう訳にはいきません。婚約式で恥かくのは私ですから・・・」

車を降りて店のドアを開ける南原・・・・

(姉貴のとこと、張り合うてんとちゃうか?)

首をかしげる桃香に、店員は挨拶する。

「これは、淀川のお嬢様!この度はご婚約おめでとうございます」

その声に奥にいた店長が出てくる。50過ぎだが、華やかな美しい女だった。

「桃香ちゃんおめでとう」

その顔を見て南原は驚く。

「春日様・・・」

杉浦組の若組長の結婚式で見た、組長の育ての母・・・・星野留美子。

哲三からその時 聞かされた話では、彼女は杉浦の先代の情婦(いろ)で 

姐亡き後、残された幼い一人息子を育て上げ、組長に就任させた女丈夫。

だが、勧められても決して正妻にはならず、今は先代から任せられた宝石店を切り盛りしているらしい。

息子の襲名式と、結婚式には母代わりで参席したが その時は姐、故、杉浦征子の遺影を携えての参席だったらしい。

業界では”春日の局”と異名をとり、春日様と呼ばれている。

「私をご存知?」

「留美さん、圭吾は鬼頭の若頭です」

桃香の言葉に彼女は笑う。

「ああ、藤島の右腕?しばらく見なかったから。立派になったわね」

「ありがとうございます」

「婚約指環を選びに来たの。」

「ええ、室戸さんから聞いているわ、でも久しぶりだからお茶しない?」

と、奥の客室に誘われた

 

「あの桃香ちゃんが結婚ねえ・・・」

コーヒーのカップを手に留美子は微笑む。

「おかしいですか?」

「いえ、こんなはねっかえり、誰が貰うのかなあ・・って思ってたから・・・」

もう・・・・頬を膨らませて拗ねる桃香・・・

「でも、女らしくなったね。男次第か 。」

ちらりと、南原を見る留美子の視線にどきりとする。

剛毅さと色香を供え持つ留美子、気丈な女と恐れられていた。

「どうして、杉浦の姐の位置をご辞退されたのですか?」

あの頃からの南原の疑問。今の彼女を改めて見て、さらに強くそう思う。

「征子様の遺言は、一人息子の征一君を、立派に組を継げるよう、育てて欲しいということ。

そして、組を任せるという事だった。でも、私、姐は辞退したわ。征子様には勝てないもの。

征子様の席は、永久欠番。」

杉浦を支えた女は二人。姐そして情婦(いろ)・・・彼女らは、業界稀な結束力で組を支えてきた・・・

杉浦征子 自らが、星野留美子をみそめて、自分の夫に引き合わせたという伝説も語り継がれている。

正妻、情婦(いろ)・・この微妙な関係は永遠の謎だ・・・

「留美さんは素晴らしい女性ですね。私なんか真似でけへんわ」

桃香は苦笑する

「真似しなくていいの。簡単な道じゃなかったわ。桃香ちゃんは、姐にならないから、そういう苦労は無しね。

藤島の弟分なら間違いないしね。」

そんなに信用ある伊吹は、何者なのだろうか・・・

「藤島は物凄い一途な奴だし〜」

ははははは・・・

南原は笑うしかなかった

「さあ、リング見ようか」

留美子は立ち上がる

 

「桃香ちゃん、やはりダイヤじゃない?」

「そうですか・・・・」

女、二人はショーケースの前で、あれこれ迷っている。

南原はちんぷんかんぷんで話しに加われない。

 「でも、結婚指環するんなら、婚約指輪なんてもったいないですよ・・・」

と留美子にカップルリングを見せる。

「これも外さなあかんしねえ・・・」

「まあ!いいわねえ。色々貰って。あ、こうしましょう。婚約指輪は後でリフォームしてネックレスにするの。」

「なるほど・・・頭いい!」

「じゃ、サイズ測って・・・」

二人でどんどん話が進む・・・

 

「じゃあ、お会計は南原さんね〜」

南原は会計担当・・・

カードを渡しつつ、それでも桃香の嬉しそうな笑顔にホッコリする。

 

結婚する実感も湧いてきた。

「南原さんはホント、藤島そっくりね。一緒にいると伝染るのかしら・・・」

ラッピンしている店員の横で留美子は笑う

「そうですか?」

「10歳くらい若い子と添い遂げるとこなんか、もう・・・」

え?!

南原は留美子を見る

「女のカンで判るわよ。誰にも言わないから安心して。」

外部にも、龍之介と伊吹を温かく見守っている人たちがいる事に気付く。

「昔の征子様と私みたいなのよ。聡子さんと藤島を見てると。藤島って征子様そっくり・・」

くすくす笑いつつ、留美子はそう言う・・・

(え・・・兄さんが正妻なんですか???)

首をかしげつつ、南原と桃香は店を後にする。

 

「留美さん、何時見てもカッコええなあ・・あんなふうになりたいな〜」

桃香は留美子贔屓だ。

「でも、あの方のような気苦労は、させませんから」

「当たり前や!浮気してみい、室戸が軍隊率いて討ち入るからな!」

それはコワイかなあ・・・と思う南原だった。

 

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