宴の後 4

 

「着きましたよ・・・」

高坂はマンションの前で、車を止める。

「手伝いましょうか?」

伊吹を抱えて車を降りる龍之介を、高坂は振り返る。

「ええ。俺、バカ力やから。それより、淀川に戻れ。親父、頼んだぞ」

「はい」

 そう言って高坂の車は去ってゆく・・・・

 

 

暗い部屋に入ると、明かりをつけ、龍之介はリビングのソファーに伊吹を下ろす。

(戸締りして・・・)

ドアの鍵をかけ、寝室のドアを開け、電気をつける。

(あ、おはじき・・・)

伊吹の脇に手を入れ、拳銃入りのボルダーを外す。

そして、自分も上着を脱いでハンガーにかけ、ホルダーを外す。

(酒 弱なったんは歳のせいか?)

そんな歳でもないだろう・・・

極道界のスター、極道中の極道と噂される、藤島伊吹は 実は、一番極道から程遠いのかも知れない。

安らかな寝顔を見つめつつ、龍之介はそんな思いにかられる。

与えられた場所で、最善を尽くしてきた伊吹。

しかし、それらは伊吹にストレスを与えていなかったか・・・

いつも張り詰めて、安らぐ時もなく、その肩に傷跡を2箇所も残し・・・

誰もが理想視するやくざが実は、虚像だということ

本来、伊吹は鬼頭に引き取られなければ、記憶をなくしていた時のような人生を生きていたかも知れないという事

(今まで無理して来たんとちゃうか・・・)

伊吹の上着を脱がして、ハンガーにかけながら龍之介はそう思う。

そして、これからも無理するだろう伊吹の人生を、龍之介は思う。

ため息とともに、龍之介は伊吹を抱き上げる。

昔、自分がそうして、寝室に運ばれていた事を思い出す

涙があふれてきた・・・・

 

ベッドに伊吹を下ろした時、龍之介の目から涙が落ちた・・・・

「お前は、それでも俺といて、幸せやというてくれるんか・・・」

確かに、哲三が見込んだ素質はあったかも知れないが。

作られた虚像に疲れ果てる伊吹が見える。昔、見えなかった色々なモノが見えてくる。

ふう〜

やりきれない思いで、龍之介はシャツを脱ぎパジャマに着替える。

そして伊吹を見る・・・

(脱がしたほうがええんかな・・・)

長袖は暑すぎる・・・シワにもなる・・・・

酔って帰ってきた夫を介抱する妻のように、龍之介はワイシャツを脱がし始める。

脱がして気付く

(ズボンも・・・)

思えば、伊吹の衣服に手をかけるのは始めてだった

(俺 今まで何してきたんかなあ・・・)

確かに、7歳の頃から世話されてきた龍之介は、伊吹に服を着せてもらった事も脱がせてもらった事もある。

逆に自分は と言うと何もしてやっていなかったのだ・・・・

10も年下だからといえばそれまでだが・・・

しかし・・・今は・・

ベルトをガチャガチャ外しつつ考える。

(でも・・・コイツは、着せられるのも脱がされるのも嫌がるやろうなあ・・・)

とにかく脱がしたズボンを、ハンガーにかけ、靴下も脱がす。

そこまでして、ふと気付くと、今この場面が、寝込みを襲っているようなシチュエーションに思えて、苦笑する

(ちゅうか・・・この格好で放置してもいいものかどうか・・・)

が・・・

パジャマを着せる気力は、もう無い・・・

いくらザルでも気の使いすぎで、龍之介も精神的に限界がきていた・・・

(シーツかけとこう・・・夏やし・・ええか)

倒れこむように眠りに落ちていった・・・・

 

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