宴の後 3 

 

「親父、すまんが さっき言うた通り、俺は口実作って 伊吹連れて先に帰るから」

高坂の運転する車で、淀川に向かう途中、龍之介は哲三にそう告げる。

「ああ、後は任しとけ。」

例の一件で、何処の組の者も、伊吹に挨拶に来るだろう・・・

そして・・・酒を注いで行く・・・

隅に隠れているわけにもいかなくなる。

「お前も伊吹も目立つから困ったモンやなあ」

哲三の言葉に高坂は頷く

何度か、宴会の運転手を務めているが、龍之介と伊吹が二人で登場すると場の雰囲気が変わるのだ。

姐同伴の場合、綺麗どころは所々にいる。しかし、伊達男コンビの存在は大きい。

姐たちが放っておかない。

親組の姐は皆、”龍之介君”と指名してきて、傍に置きたがるし、

伊吹の場合、親も同等も皆”藤島”をご指名する。

要するに、おばちゃんたちのアイドル・・・・・

しかも姐さんたち・・・・ホストにでもされた気分である。

哲三が見計らって、龍之介や伊吹を呼んでやらないと何時までも姐さん巡りをしないといけない。

だから、哲三は宴会について行くことにしている。

「2次会は適当に抜けてええぞ。ワシは歳やから、そんなに飲まされへんし、ワシが残る」

 

 

会食は式順通りに進み、その後、宴会へとなだれ込む・・・・

上座には梅乃と稲垣。介添えに室戸がおり、桃香と南原が忙しく指揮をしている。

順番に祝いの口上を 前に出て述べると、後は本格的な宴会になる。

 

「この度は御婚約おめでとうございます」

鬼頭の番になり、龍之介が祝儀を差し出す。

「ありがとうございます。宜しくご教示下さりますよう・・・」

いつの間にか、それなりに貫禄を身につけた稲垣がいる。

「藤島の兄さん、この度はご迷惑をおかけいたしました。今後このような事が無いよう気をつけますから・・・」

伊吹は笑う

「もう、藤島とお呼びください。」

「いえ、まだ襲名前ですから」

そんな稲垣の真面目なところが好きだと、伊吹は思う

 

挨拶に一廻り、酒をついで廻る鬼頭ファミリー・・・

「藤島、災難やったな。もうええんか?」

組長達には、そう訊かれ、

「おかげさまで・・・」

そう繰り返す伊吹・・・・

挨拶回りが終わるととたんに、鬼頭ファミリーは集られる

「8代目、後継ぎ生まれたんやて?おめでとう。」

加藤組の組長がやってくる。哲三と同い年だろうか・・・・

「ありがとうございます」

「子供に手ぇかかって、姐さんに放置されてるんと違う?」

歳はとっているが上品な姐、加藤麻子は笑いかける

「それはしゃあないですから・・・」

にこやかに答える龍之介

「浮気するなよ〜」

組長、加藤義男は冗談ぽくいう

「あら、8代目は真面目やから、浮気なんてないわよ。まだ情婦(いろ)の一人もおらへんし・・・」

どきっ・・・・・

(すみません情夫はおりますが・・・)

「それより8代目、藤島に何時までもべったりやと藤島が嫁貰われへんぞ・・・」

どきっ・・・・しかし表情は変わらない

伊吹は余裕で返す

「組長・・・私なんかの嫁になってくれるような人はいませんから」

「何言うてる!ウチの孫娘でも嫁にやりたい気分やのに・・・」

え〜!!!!!

心で叫ぶ龍之介

「いくつなんですか?お孫さん」

「幼稚園児やけど」

はははは・・・・・

伊吹は笑う

「それは残念ですね」

余裕のある伊吹に対して龍之介は気が気でない

「まあ、飲め」

酒を注がれる伊吹・・・・

(始まった)

これが限りなくリピートされるのだ・・・・・・・

龍之介の横で哲三はささやく

「力抜け・・・」

ポーカーフエィスではあるが、身体にかなり力が入っているらしい。

(伊吹の事となると・・・全く・・・)

あきれる哲三・・・宴会歴は伊吹の方が遥かに長い。大抵は余裕でかわせる。

なのに、龍之介の方は一々反応するのが心配である。

確かに、こういう席で、本当に縁談を持ち込んでくる組長もいるが、伊吹は口八丁手八丁でかわす。

「哲三さん、久しぶり・・・」

高橋組組長がやってくる。

ここで哲三は高橋にとられていった・・・・

 

「あら、龍之介君!相変わらず麗しいわね」

大元組の姐、志保がやってくる。

40代の龍之介のファンクラブ会長。社交場では、かなり幅を利かせている。

元、祇園の売れっ子芸者で 人あしらいはプロ。美貌でも評判・・・

「姐さん・・・」

龍之介は彼女が苦手である。

「藤島にばっかりくっついてないで、こちらにいらっしゃい」

(嫌です・・・)

苦笑しつつ拉致される

そして・・・ファンクラブの真っ只中に。

(伊吹!〜〜〜)

この時点で3人はバラバラになってしまった・・・・・

 

 

一通りファンクラブと写真撮影を終え、龍之介は手洗いに立つ振りをして、伊吹を探す・・・・

宴会開始から2時間経過した。どんなピッチで飲んでいるかは判らないが、そろそろ伊吹が心配である。

 

大石組に捕まって、飲まされている伊吹が見えた・・・・

後ろからそっと近づく

表情も態度も余裕なのに膝の横、手先だけが落ち着きが無い。

(爪はじいてる!!!!)

そっと、会場を抜けて廊下で、岩崎の携帯に電話をかける

「岩崎、俺や。2分後に俺の携帯に電話せい」

伊吹救出作戦に入る龍之介だった。

 

電話のかかる頃を見計らって、大石組に挨拶しながら割り込む。

携帯が鳴り、会釈をしてその場でとる

「おう、岩崎・・・何かあったんか? え!判った、すぐ帰る」

 

そういって切れた電話の向こうで、岩崎は首をかしげた・・・

(組長・・・何一人で喋ってんの?)

 

「鬼頭、何かあったんか?」

大石組組長が訊いてくる。

持ってました、とばかりに龍之介は深刻な顔をする

「急に鬼頭の方が取り込みまして・・・すみません、これで失礼します。ウチの伊吹も連れて行きます・・・」

「ああ・・・気ぃつけてな・・・」

会釈すると龍之介は伊吹の腕をとり、一旦退場する。

「高坂・・・」

運転手たちは別室で控えていた

「組長・・・・」

「伊吹、車に乗せろ。」

そして、龍之介はもう一度宴会場に戻り、室戸と哲三に 暇乞いをする。

 

これで脱出は完了・・・・・・

 

玄関にまわされた車に乗り、龍之介は一息つく・・・・

 

 「うまいこといった。とにかく伊吹のマンションに」

後部座席で、伊吹はすでに爆睡状態だった。

「大丈夫ですか・・・兄さんは・・・」

高坂は心配げに訊く

「ああ・・・コイツは、朝までおとなしゅう寝るから問題ない。明日は多分、二日酔いで鬼頭には来れへんな」

他の組の者は、こんな藤島伊吹の姿は知らない・・・・

鬼頭の組中で守りぬいた、カリスマのメンツ・・・・

「組長も大変ですね・・・」

ふっー

龍之介は笑う

「こんなん、どうって事ない。コイツは17歳の高校生の身で、俺の面倒見てきたんや。その事思うたら・・・」

何時までも子供ではない。

自分が、少しでも伊吹の面倒を見れるようになったことが、龍之介には誇らしい。

隣で眠る伊吹の肩を引き寄せて、そっと微笑む・・・

  

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