宴の後 2

 

 南原は朝から 淀川に助っ人に行き、龍之介と伊吹は昼過ぎに外回りから帰ってきた。

「暑いなあ・・外は」

スーツで真夏を過ごすのに、うんざりする龍之介。

「中のワイシャツを半袖にしはったらどうですか?」

伊吹は龍之介の後ろから、そう言いつつ入ってくる

「そう言うお前は、何で長袖やねん?」

冷房のかかった事務所のソファーに腰掛けつつ、龍之介は訊く。

高坂は冷蔵庫から、天然水のペットボトルを取り出し、グラスに注ぐと差し出す。

「誰かに見れらたら、かっこ悪いですから・・・」

ああ?・・・・

氷の浮かぶグラスを掲げて、龍之介は眉をしかめる

(そういう理由か?)

彼が、鬼頭のカリスマと呼ばれる所以はここである

かなり人目を気にする・・・・というかスタイリストである。

格好付け、というよりは格好悪いことを極端に避ける。

「暑うてもスタイル重視か・・」

何のために・・・・

「それ以上モテてどうするんや・・・」

「スタイルに無頓着になったら、男も女も終わりですから・・・」

・・・・そうなんか・・・・

「まあ、組長は何着ても、サマになるんで大丈夫ですよ」

そんな伊吹の言葉に、高坂は空いた口が塞がらない

(結局のろけですか・・・・)

とぼとぼと事務室を出て行く高坂・・・・

 

「それはそうと、大丈夫か?今日の宴会」

龍之介の心配はそれしかない

「自信ないんですけど・・・」

酒が弱くなった自覚はある・・・

「お前、ザルと思われてるからなあ」

大きな錯覚だ

「組長は下戸と思われて、あんまり飲まされませんしねえ・・・」

「前の襲撃事件のこともあるし、淀川とはいえ、弱点晒すわけにいかんしなあ・・・」

早々に退散するしかあるまい。

「限界来たら、俺がどうにかして連れ出すしかないな・・」

「限界がわかるんですか・・・」

酔っても全く変わらない伊吹である だから、誰にも酔っているとは思われない。

「微妙にな・・・お前、酒癖があるんや。酔うたら、手の指の爪はじく癖がある」

え・・・・

それは初耳な伊吹

「ホンマですか?」

「普段、せん事してるから気にして見てたら、それ、酒癖やった。その後しばらくして爆睡。これがパターンや」

さすが、ザルの龍之介はよく観察している。

「淀川で爆睡するのだけはやめろ。鬼頭のカリスマのイメージ崩れるからな」

やくざって辛い・・・・しみじみ思う伊吹・・・・

「明日はお前、休暇や。正月までになんとかペース戻せよ」

「ご迷惑をおかけします・・・」

頭を下げる伊吹

「いや、そういうとこもないと・・・お前は完璧で、可愛げ無いからなあ・・・」

「萌えですか?それ?」

「そうそう」

いつの間にか、保護者のようになってゆく龍之介が頼もしい。

記憶喪失事件の後、急に龍之介はしっかりしてきた気がする

息子のようだった龍之介が、今では立派に伊吹と対等の”恋人”となっている・・・・

「何考えてる?」

遠い目をしている伊吹の顔を覗き込んで、龍之介は訊いて来る

「組長は日々、成長してはるなあ・・・と」

ふっー

龍之介は笑う

「お前を守ると決めたからな、あの時。微力ながら努力はしてる」

そうか・・・

自分の後ろをちょこちょことついてきた少年は、いつの間にか立派な男になり、隣で支えてくれている

しなやかな強さを見につけて・・・・

その時、その時が最高に美しい・・・・

だから、伊吹は龍之介が変化するたびに魅かれてやまない

そして・・・いつか自分を越えていくのだろう・・・・

 

「先代がお呼びです」

高坂がそういいつつ、事務室に顔を出した

「ああ。今行く」

立ち上がる龍之介の後に続いて、伊吹も立ち上がった。

 とにかく、今日の宴会を何事もなく終えなければならなかった。

 

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