旅の途中 5

 

朝食を、ホテルのカフェでとりつつ伊吹と龍之介、島津は時間をつぶす。

朝食を進められて、拓海と紀子は頭取宅から脱出できずにいるらしい。

「えらい気にいられてるなあ・・・」

駅まで車で送るために来た島津は、苦笑する。

「まあ、今日中に大阪に着いたらええし・・・なんなら明日帰ってもええけど」

「組長!」

伊吹にたしなめられて、自粛する龍之介

「確か・・頭取の奥さんは公家の血筋やで・・・世が世ならお姫さんや・・・」

島津の言葉に不安になる伊吹・・・

「大丈夫ですか・・・紀子は・・・」

ドラマで観た、大奥の女の世界が頭を掠める・・・・

「ああ・・・前に夫婦同伴で、ワシの展示会にきはったけどな・・・ご主人に負けへんおっとりさんで、

京美人やった。あの夫婦は天然記念物やな・・・」

なんちゅう言い方ですか・・・・

伊吹は苦笑する

「あの人、浮世離れしてて、金持ちのお嬢さんと違たら、使いもんにならへんかったな・・・」

どういう言い方ですか・・・・

「平たく言えば、人がよすぎて利用されるタイプや。まあ、その点、頭取さんがしっかりしてはるから大丈夫」

確かに、拓也氏は頭取にまで出世しているぐらいだから、利用されるタイプではなさそうだ・・・

「箱入り奥様や。その息子は、また秀才で東大目指してるとか、なんとかでクールな高校生なんや・・」

恐るべし花園ファミリー・・・・

「信さん、知り合いか?」

「ああ、若ぼんには言うてへんかったかな・・・展示会の時、融資してもらってる銀行の頭取さんが、

花園拓也さんやねん」

「組長、鬼頭商事の東京支店も、そこのお世話になってます。先代の事ご存知でした。」

ああ・・・・

途方にくれる龍之介。世間は狭い・・・

「そんなんで、ウチとも縁があるし、縁談は安泰や」

確かに伊吹も肩の荷が下りた・・・

 

「それはそうと、昨日はゆっくり出来たか?」

結局は、そこに行き着く島津信康・・・

「いつものことや」

さらりとかわすスタイリッシュな龍之介・・・

「でも、不倫旅行は萌えるやろ・・・」

同じ事を、誰かが言っていた・・・と伊吹は思う

「色々勉強にはなったわ。俺もまだまだ未熟やし、頑張らなあかんな・・・と・・」

ふ〜ん

頼もしい8代目を前に、おちょくる事もできなくなった島津は沈黙する。

「信さんも忙しいけど、結婚式の段取り頼むわ」

ああ・・・

すっかり組長の顔になった龍之介に、昔の哲三の面影を見る。

 

「あ!お兄ちゃん見つけた」

紀子と拓海が近づいてくる

!!!!

伊吹は紀子の姿に目を見張る。

派手では決してないが、上品で、どう見ても高価そうなスーツ、小ぶりだがダイヤモンドのネックレス・・・・

靴までおそろい・・・・・

「紀子・・・・」

「似合わないでしょ・・・お義姉さんが買ってくださったんだけど・・・」

昨日ショッピングして回ったらしい。

「じゃなくて・・・」

「これでも、かなりご辞退したほうなんですよ。着物までつくるなんて言い出しちゃって・・」

拓海は隣で苦笑する

「着ていくとこないよねえ・・・着物なんて・・・」

島津は大笑いする

「あの奥様はそういう人やし・・・」

ある意味、旦那が大変なのでは・・・と伊吹は思う。

     

 

「・・・なんで着替えるんや・・・」

新幹線の乗り場に現れた紀子は、来る時の服装になっていた。

「だって、皺になったら嫌だもん」

貧乏症・・・・・箪笥の肥やし決定。

「まあ、何着ても、紀ちゃんは紀ちゃんだから〜」

それでいいのか・・・・拓海・・・・

 

「若ぼん、気ぃつけて・・・またそっち行くから・・・」

島津に見送られて、龍之介たちは帰途に着く・・・

 

まだまだ分岐点。これからが新しい出発だった。

 

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