旅の途中 4

 

外で夕食を済ませて、龍之介と伊吹はホテルの部屋に帰ってきた・・・

「ルームサービスで、何かとりましょうか?」

伊吹が気を使う・・・

「何?酒とか? 俺は・・・酒好かんし・・・」

「でも、せっかくやから雰囲気出して・・・ワインとか」

「ええ。ええ・・・」

手のひらをひらひらと振る龍之介

結構、付き合いで酒の席は多い。それに日ごろうんざりしていた。

「はよ風呂に入って寝室に行こう」

「もう寝るんですか?」

「寝たらあかんやろ!」

ああ・・・・

龍之介に叱られ伊吹は苦笑する。

 

「先シャワーするぞ〜」

シャワー室に入る龍之介を見送り、伊吹は紀子に携帯で電話する。

「今何処や?」

「まだお義兄さんの処・・・今夜は、ここに泊まるから」

「明日の朝ホテルのロビーに集合やぞ」

「うん、お休み〜」

 

元気そうな声にホッとする。

 

 

 

「お先、お前もシャワーせい」

ホテルのバスローブに、頭にタオルをかけて龍之介が出てくる。

「龍さん、紀子、頭取さんとこに泊まるそうです」

「そうか・・・よかったな。」

「よかったんは龍さんでしょ?」

・・・・・・・

確かに・・・邪魔される心配はないが・・・

 

 

「ホンマに堂々と、外泊できる貴重な機会、逃す訳にいかんしな〜」

ベッドに腰掛けて龍之介はしみじみと言う。

「妻子持ちは大変ですね・・・」

ドレッサーの前の椅子に腰掛けた伊吹が苦笑する。

「ツー事は・・・あれか・・これは不倫旅行」

「なんとでも言うてください」

返す言葉も無い伊吹。

「不倫旅行・・・なんか萌えへんか?」

「いいえ・・・全然」

ため息をつく龍之介・・・

「おもろないなあ・・・・お前は」

「すみません・・・・」

 

「お前は、これで幸せなんか?」

突然真剣な顔をして、龍之介が訊いて来る。

「はい」

即答されて さらに不安な龍之介。

「ホンマか?よう考えろよ」

「考える余地ありません」

「まともに結婚したら、子供の一人や二人くらい・・・」

いきなり立ち上がった伊吹に、龍之介は抱きしめられる。

「自信ないんですね・・」

「自信ない・・・いつも。俺だけ嫁もろて、息子がおって・・・」

我知らず涙が溢れる

「また泣く・・」

「お前の前で泣くのはええやろ」

伊吹は笑って、龍之介の涙をぬぐう。いつも同じ問題でひっかかり、心を痛める龍之介・・・

「一番欲しい物は手に入りましたから、思い残す事はありません。」

「アホなヤツ・・・」

「たとえ龍さんに、妻や子供がおっても龍さんは私のモノですから」

(そんな自信、何処から来るのか・・・・・)

龍之介にはわからない。が伊吹は偉いと思う。

組のモノや、井上や、金居譲が伊吹に懐いているだけでも、嫉妬する龍之介には想像もつかない。

もしも立場が逆で、伊吹が結婚していたら・・・

はあ〜〜〜〜

大きなため息をつく・・・・

「嫌なんですか?私のモンになるんが・・・」

「いや・・・」

どう説明していいか悩む

「しんどいですか・・・」

「それでも・・・お前に逢えて幸せやから・・」

最愛の人を傷つけているかも知れない不安、それが龍之介の悩み。

「絶対、お前を幸せにするから」

はあ・・・・

龍之介の思考についていけない伊吹がいる・・・

「充分幸せですから・・・」

自分こそ、いつも龍之介を泣かせているのではなかったか・・・伊吹はそう思う

他の事で龍之介は泣かない・・・

「私こそすみません・・・龍さんを泣かせてるのは、私のほうです」

「お前になら、なんぼでも泣かされたる」

 相変わらず向こう見ずで、情熱的で直行型・・・・・

「そんな可愛い事いうたら、襲いたくなるでしょう?」

微笑みつつ、龍之介をそっと寝かせる伊吹に龍之介は戸惑う。

「人格変わったな・・・」

記憶を失くしていた時の人格のなごりが垣間見える・・・・

伊吹自身、愛情表現の希薄さで龍之介を不安にしていた過去を反省しているのだ・・・

伊吹の首に腕をまわして、引き寄せながら龍之介は笑う。

「お前は口ばっかりで、ちっとも襲わんし・・・」

ははは・・・

苦笑しつつ、伊吹は自分の肩に龍之介の頭を乗せる

「そういえば昔、先代に”龍之介を手篭めにしたら指ツメじゃすまんぞ”と言われました」

「ナンやそれ・・・指ツメが怖くて襲えんちゅうんか・・・」

「いいえ・・・当時、そんな事するくらいなら、自分で舌噛んで死のうとか思うてましたが・・・」

「武家の娘か・・・おまえは?」

しかも逆だろう・・・・・

「龍さんの望まん事は、出来んと言う事ですよ」

「嘘付け、俺が襲うてくれと言うたら、お前は襲うか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・

沈黙が流れる・・・・・・

「もうええ。お前は、そういうヤツやから・・・」

「それは褒め言葉ですか?」

「もちろん」

龍之介は諦める。仕方ない・・・・’

そういう伊吹が龍之介は好きなのだから・・・・ 

 

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