旅の途中 3

 

昼食をF大の近くのレストランで摂る事にした、龍之介と伊吹、運転手の井上は窓際の席に座る。

「懐かしいな、ここ・・・」

時々、伊吹と待ち合わせて、食事した思い出の場所・・・

「組長も、大学時代は友達と、ここでお昼しはったんですねえ・・・」

井上の言葉に伊吹は頷く。

実は伊吹としか来なかったが・・・それはスルーして、伊吹はオーダーをすませる。

「井上も昨日今日とごくろうさん。」

「いえいえ・・こんな事でもないと、兄さんにもなかなか会えへんしねえ・・・」

(またか・・・・コイツも伊吹に懐いとる・・・)

隣で二人の会話を聞く龍之介は、少し不機嫌だ。

「組長も、ますます貫禄、でてきはりましたなあ・・・」

伊吹は思い出し笑いをする。

「お前、覚えてるか?三条さんとこのバカ息子」

「組長にちょっかい出したあの?」

「昨日、ホテルのレストランで組長に声かけよった・・・」

はぁ・・・・・

言葉を失くす井上

「あいつ、まだ懲りとらんのですか?」

「気付いとらんかった。俺見て、気付いたみたいやな」

「確かに・・・まさか、あのぼんがこんなにクールなやくざになるとは、誰も思いませんからね・・・」

それだけ立派になった と見ていいだろう・・・

「物凄い驚き様やったぞ・・・」

「やはり・・・」

笑いあう伊吹と井上・・・・和気藹々

少し寂しい龍之介・・・

こんな時、藤島伊吹は自分一人だけのモノでは無い事を実感する。

うわべは変わり果てても、中身はやはり、相変わらず甘えん坊のままである。

「鬼頭も色々大変でしたねえ。兄さんも・・・聞きましたよ〜行方不明になって記憶喪失で・・・」

「シャレにならんくらい大変やったな。特に組長が・・・」

ああ・・・・

頷く井上。一時的にでも、伊吹を失くした龍之介は、生きた心地もしなかったろう・・・

「組長、お疲れ様でした」

頭を下げる井上に一瞥しつつ、龍之介は頷く。

「ああ・・・」

そうこうしているうちに、食事が運ばれてくる・・・・

日替わりディナーをつつきつつ、世間話をする3人

 

「島津の兄さんは、たま〜に顔だしはりますよ〜」

何処にでも顔を出す島津信康・・・・

「ぼんの事とか聞きましたよ」

「優希か・・・今のところ、元気に育っとるな。」

「組長似ですか?」

ああ・・・

似て欲しくないバンビ目が、瓜二つ。

「可愛いでしょう?見てみたいなあ・・・」

息子は厳しく育てよう などと決意している龍之介だった。しかし、へタレは鬼頭家の血筋・・・・

 

「南原、そのうち結婚するぞ」

伊吹が思い出したように言う

「え!?誰とですか?」

「親組の、淀川の中嬢さん」

「え!美人3姉妹の一人?羨ましいな・・・で、南原の兄さんは、婿養子に行かはるんですか?」

「いや、婿養子は、大嬢さんの婿の稲垣や」

「稲垣が淀川継ぐんですか・・・」

「お前も結婚せいよ」

ははは・・・

井上は、伊吹に突っ込まれて笑い出す。

「皆目あきませんなあ・・・」

 

 

「じゃあ、お気をつけて・・・・」

島津邸まで、龍之介と伊吹を送り、井上は去って行く・・・・

 

「組長?」

振り返ると心なしか不機嫌な龍之介・・・・

「お前は、井上とも仲ええなあ・・・」

「永い付き合いですから・・・?!妬いてはるんですか?」

「妬いてない!」

そういう言い方がすでに妬いている・・・・

(しゃあないなあ・・・)

苦笑する伊吹。

「お帰り」

リビングに入ると、島津がそういって迎えた。

「先生と紀子さんは、頭取夫人に夕食に招待されて家に行ったで、ワシ近くまで送っていった」

「そうですか・・・先生のお義姉さんが・・・」

伊吹はうなづく

「どうする?俺ら・・・」

龍之介は途方にくれる

「ワシんとこでメシ食うていけ」

「信さん、せっかくやけど、行きたいとこあるから、これで・・・」

「若ぼんそっけないなあ・・・」

「せっかく東京にきたんやから、思い出の場所、巡りたいんや」

「そうか?まあ、二人っきりでデートしいや・・・」

残念そうな島津を後に、龍之介と伊吹は島津邸を出る。

 

「何処に行くんですか?」

道を歩きつつ、伊吹は訊く。

「大学時代住んでたマンションの界隈」

地下鉄を乗り継いで、懐かしい住宅地へと向かう。

 

「中には入れへんけど、行ってみたかったから・・・」

4年間通った懐かしい道がある

そして・・・マンション・・・

「え〜と・・・あそこか・・・」

部屋の窓を数えつつ龍之介は指差す。

昔通った、もう通うことの無い道。

「ここでは、ほんまに色々ありましたねえ・・・」

伊吹も感慨深い。

「俺らの原点やから」

ここまでの道程も、自らの足で辿りたかったのだ。

「近くのスーパー行ってみます?」

よく二人で買い物に歩いて行ったスーパー・・・

「屋上でクレープ売ってたな」

「焼きソバもありましたね」

「焼きソバは、伊吹の作ったやつの方が美味かった。」

昔に戻ったような錯覚に陥る・・・

スーパーは、そろそろ夕刻のタイムサービスが始まろうとしていた。

「にぎやかやな・・・相変わらず」

気後れする龍之介

この場所にやくざは似合わない・・・

「大阪にいてても、スーパーなんて行かはらへんでしょ・・・」

「ああ・・・」

あの日々は過去のもの・・・・そんな気がして少し寂しかった。

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