旅の途中 2

 

鬼頭商事のドアを開けると、相変わらずの金居久美子嬢が駆け寄ってくる。

「藤島さん!お久しぶりです」

「相変わらずですねえ・・・」

と言う伊吹の後ろの龍之介を見て、安田女史は頭を下げる。

「社長、ようこそ・・・」

「え、あの方、社長さんなんですか?若いですね」

井上に耳打ちする久美子

「去年、代変わりしてなあ。8代目や」

「じゃあ、あの方が当時”ぼん”って言われてた噂の・・・」

「ああ」

頷きつつ、お茶を入れに台所に向かう久美子

「応接間にどうぞ」

安田女史に促されて二人は応接間に向かう

「帳簿お持ちしますから・・・」

安田女史の声を聞きつつ、龍之介と伊吹はソファーに腰掛ける。

お茶を持ってきた久美子はテーブルに置く。

「金居さんお元気でしたか?」

伊吹はいつもの笑顔を向ける

「はい、今度結婚します。でも仕事は続けますけど。」

「そうですか、おめでとうございます。また連絡ください。お祝い贈らせてもらいますから」

「ありがとうございます。ごゆっくり」

と久美子は去ってゆく。

「あの娘、えらいお前に懐いとるなあ」

「面接で”うちはやくざですけどええですか?”て聞いたら、正直なとこが気に入った言うて気に入られまして・・・」

「おかしいで・・・それ。」

ははは・・・・

伊吹はコーヒーを飲みつつ笑う

「どいつもコイツも、伊吹によう懐くなあ」

嫉妬心が湧いてくる。そんな龍之介が伊吹は可愛くてしょうがない。

「お待たせしました」

安田女史が入ってきて帳簿を龍之介に渡す

「安田さんのお蔭で、東京は完全まかせっきりでも問題無しですね」

帳簿を確認しつつ、龍之介は呟く

「すみません、いままでほったらかしてて・・・」

済まなさそうに伊吹が謝る

「そんな・・・それより鬼頭組、親組の闘争に巻き込まれて大変だったんでしょう?特に藤島さん」

「はい、生け捕りにされかけて、肩撃たれて、川にはまって・・・えらい事でした。」

今では笑い話だが・・・しかし龍之介はまだ笑えない。

「時々、修一から電話来ますけど、あの時は本当に、組中が緊迫して大変みたいでしたねえ・・・」

「え?修一?」

龍之介は伊吹を見る

「ウチの安田ですよ」

「やなあ・・・」

「安田女史は安田のお袋さんですよ。」

え・・・知らなかった・・・同じ安田ではあると思っていたが・・・

「昔、夫に先立たれて、まだ幼い修一を抱えて仕事探しいてた私に、鬼頭商事の経理を任してくださったのが

先代なんです。一応経理の資格はありましたが、事務所で子供見ながらでも働かせてもらえたんですよ。

先代は恩人です」

そんな事情があったのか・・・

龍之介はまだ自分の知らない、組の事情があることを知る。

「修一をたたきなおしてくれたのも先代なんです」

(親父は結構人助けしているらしい)

龍之介はぼんやりそう考えていた・・・・

「取引先の銀行の頭取さん、花園さんとおっしゃるんですか?」

思い出したように伊吹は訊く

「はい。物凄く愛想のいい方ですよ。」

「それって・・・」

「組長、拓海先生のお兄さんです」

え・・・・そういう縁もあるのか・・・・

「拓海さんって、頭取さんの末の弟さんでしょ?」

安田女史は何故か知っている

「ウチの妹の婿になる人です」

「よかった!結婚するんだ!なかなか結婚できないから、いい人いないか?って聞いておられたんですよねえ・・・」

そんなに心配していたのか・・・・龍之介と伊吹は顔を見合す

「結婚式には参席しますよ。ついでに修一にも会って・・・」

母親の顔になっている安田女史を、龍之介はしみじみと見つめていた。

 

 

「クールでシビアな安田女史も、あんな母親の顔するんやな・・・」

龍之介は帰りの車でそう呟く。

「ご存じなかったんですか?安田の事・・・安田は高校時代グレてて、女史の悩みの種やったんですよ、

そこに先代が来て、”たたきなおしたる!”いうて鬼頭に連れて来たんが始まり。先代にたたきなおされて、

今は立派なやくざです」

はぁ?

龍之介は眉間にシワを寄せる

「それ、間違うてへんか?グレたヤツを更生させて・・・やくざにした??」

はははは・・・・

伊吹は言葉も無い・・・・・

「でも、真面目なやくざになってるやないですか・・・」

まあなぁ・・・・・・

あの安田が昔グレテたとは・・・・

そんな片鱗は微塵もない。組で一番 真面目な男である。

「当時、えらい荒治療しましたよ〜先代は。まあ、安田も根は真面目なヤツですから・・・

あいつにとっては、先代は親父さん代わりやったんですねえ・・・」

「安田女史は、それで親父に生涯忠誠を誓ってるんか・・・・」

なんとなく判ってきた龍之介・・・

 「いろんな事あるんやなあ・・・」

哲三の歩んで来た道を辿るにはまだまだ程遠い・・・

そんな気がする。

「これからですよ。まだまだ・・・・」

伊吹の言葉に頷きつつ、龍之介は外の流れる景色を見る。

 

 まだ旅の途中なのだ・・・・と・・・・

 

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