東京の夜 3

 

明け方5時・・・龍之介はふと目を覚ます。

水差しの水をコップに注いで飲み干すと一息つく、夢見がよくなかった 寝汗をかいている・・・

「龍さん・・・ゆっくり寝ててええんですよ・・・」

気配に気付いた伊吹が、そう告げる。

「ああ」

再び、ベッドに横たわると深い物思いに陥る。

「何考えてはるんですか?」

「伊吹が怪我した時の・・・あの時の夢見た。」

「ドスで肩斬った時ですか?」

 

 

当時 龍之介は15歳だった。

騒ぎで起き出して来て、白いシャツを血だらけにした伊吹を見て、かなり動揺していた。

泣き叫び、平常心を失っていた。

幼くして母を失くした龍之介は、死に対して過敏に反応する。

パニック状態の龍之介を、とりもなおさず。伊吹は抱き上げて部屋に運んだ・・・・

肩の痛みなど、何処かに飛んでいってしまっていた。

 

 

「龍さんには悪夢でしたね・・・」

「ああ、お前まで亡くすんとちゃうかと思うと、何が何か判らんようになった」

その割には、一夜明けると龍之介はいつも通りで、その後 肩の傷を目にしても取り乱さなかった。

「あの後、お前が俺を寝かしつけてくれたんやろう?俺すぐ寝たんか?」

記憶があの後、ぷっつりと途切れているのだ。

「俺・・・取り乱してからの記憶無い・・・」

それは薄々、伊吹も気付いていた。確信したのは三条の事件の後だったが・・・

「いいえ、あの後、抱っこしたら龍さんは落ち着いて眠ったんです。でもなんで、今更あの時の事を?」

唐突と言えば唐突だ

「いや、どうしても三条なんかにファーストキス持っていかれたんが無念で、ムカつくなあ・・・と思いつつ

眠りに着いたらこんな夢見た。何の関係があるんやろ?」

忘れかけていた三条の事が、昨日の出会いで再び思いおこされた。

「・・・・・・」

ぎくっとする伊吹の表情を、龍之介は見逃さない

「おい!何か隠してるな!」

「い・・・いいえ。あの・・三条が最初とちゃいます・・・」

「どういうことや?」

三条より以前に、そんな記憶は無い・・・・記憶?!

記憶は無いが、何かそんな事実があったのか!?

伊吹は観念して、ため息をつくと起き上がり、龍之介に向き直った

龍之介も つられて起き上がる

「すみません。今まで隠してました。」

「何を?」

「肩を斬りつけた、あの晩の事です」

「俺の記憶が抜けてる、その部分のことか?」

「はい」

「すぐ寝付かへんかったんやろ?何があったんや?」

・・・・・・・・・

(ナンや!その沈黙は!!!)

「お前と俺の仲や、大概の事はスルーするさかい言うてみい」

伊吹はあの夜のことを語り始めた・・・・

「龍さんがあまりにも取り乱すので、部屋に抱えて行きました。寝かしつけても泣いて暴れるので、

ずっと抱きしめてました。それでも落ち着きません。」

「それで、何をして落ちついたんや?」

「だから・・・キスを・・」

「口に?」

沈黙が流れる・・・・・

 

「理解できんわ・・・」

龍之介の言葉にショックを受ける伊吹・・・

「すみません。でも、誓ってふしだらな思いで、そういう事をしたわけではありませんから・・・」

「違う。」

はあ????

「そりゃあ、当時は俺は中学生で、下手したら淫行罪で捕まる恐れもあるけど、お前の事やから、

倫理云々で罪悪感を感じるかもしれんが、現在こういう仲になってて、真剣に詫びながら言う事か?」

あきれて龍之介は横たわる

「もっと もの凄い秘密でもあるんかと思うたわ・・・がっかりやな・・・襲われてても驚かへんかったぞ〜」

「そんな事しません・・・」

「すまんな、覚えてへんかって・・・でも夢に見るとは・・・潜在意識が覚えてたんかなあ。それに、お前は

隠してたんと違ごて、わざわざ言わんかっただけや」

ふ〜〜

伊吹も、ため息とともに横たわる

「そりゃあ・・・言えないでしょう?ファーストキスの相手が男だなんて、ショックじゃないですか?」

「いや、言うてくれて感謝するわ。そやから俺の”初めて”はどっちもお前が持ってった。それだけでも三条の事、

許す気になったなあ・・・・」

はははははは・・・・・

ざまあみろ・・・・勝ち誇ったように笑う龍之介

「あんなヤツどうって事ないやんか!!」

三条事件のトラウマが一気に吹き飛んだ龍之介。

「最初がおまえでなかった ーこの事がどれだけ悔しかったか・・・」

(そうなんですか?)

「何で早よ言わんかなあ・・・・どれだけ悩んだかわからんのに・・・俺に記憶ないから言えんかったんか?」

「わざわざ言う事でも無いでしょう?」

「そやから、お前は俺が泣くと ちゅーするし、俺はそれで泣き止むんやな・・・」

悪夢からも開放された気分になり、龍之介は再び眠りに落ちた・・・・

龍之介の安らかな寝顔を見つめつつ伊吹も目を閉じて眠りに着いた・・・

 とにかく、龍之介のトラウマが癒されてよかた・・・その思いしかなかった。

  

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