東京の夜 2

 

伊吹が寝室に入ると、龍之介はベッドで煙草を吸っていた。

「また吸い始めましたね・・・・」

伊吹が鬼頭に戻ってから、しばらく禁煙していたのに・・・・

「すまん、つい気が緩んで・・・」

煙草を吸う気も起こらないほど切迫した日々を送り、今ようやく落ち着いたというのだ・・・

慌てて灰皿で火を消す。

「煙草の匂いしたら・・・萎えるか?」

「いいえ」

「しかし・・・あの先生・・・なんちゅうか・・アレやな」

ふふふふふ・・・・・

伊吹はこらえきれず噴出す

「お前は笑う資格ないぞ〜昔のお前そっくりや」

こんな所で、あの頃の伊吹の面影を見ることになるとは・・・・

「何処がですか?」

「まんまや」

ふぅ〜〜〜〜

諦めたように伊吹はベッドに横たわる

「何とでも言うてください」

「でも、新婚時代に戻ったような気がするやろ?」

龍之介も横たわる

「さあ・・・私にはいつも新婚みたいなモンですから・・・」

「そういう殺し文句も言えるんか・・・」

龍之介は伊吹の肩に頭を乗せる

「でも、三条のバカ息子は勘弁して欲しいですね・・・・」

「腸煮えくり返るなあ。」

しかし・・・

伊吹は、あの時の覚悟を決めた龍之介の面影を忘れられない。

「あの時、惚れ直しましたよ」

何の事か判らない龍之介は、怪訝そうに伊吹を見つめる。

「舌噛み切ろうとしたでしょ?あの時・・・」

ああ・・・・

それが、あの時の最後のプライドだった・・・

「あんな気高い崇高な面持ちは、最初で最後でした・・・そのときの龍さんに、鬼頭の組長の素質を見ました」

ふっ・・・

龍之介は苦笑する

「俺は逆に、助けに来たお前見て、白馬の王子様に見えたぞ」

「ドス持った白馬の王子様ですか」

はははははは・・・・・

笑う伊吹を見つめつつ、龍之介は、しかしあの時 伊吹の姿に涙が出るほど嬉しかったことを思い出す。

「俺らは変わったかな・・・」

「変わっていくものでしょう・・・変わらんのは・・想いだけ」

「それも、少しづつ変わっていく、俺はあの一件で、お前にしてやれることは何かを真剣に考えたぞ」

ふふふふふ・・・・

伊吹は笑いつつ龍之介を見る

「ただ私に甘えててくれるだけで、最高に嬉しいですけど」

「甘えるとこは・・・お前んとこしかないもんな」

一時的にでも”別れ”を経験した

なのに、不思議な事に昔よりも、遥かに永遠を身近に感じる。

恐れも、もう無い

死が訪れても・・・来世を信じれる気がした。

「来世は・・・ちゃんと夫婦になろうな」

龍之介が思い残す事はそれ1つ・・・

「やはり、嫁になりたいんですか?」

「もろてくれるか?」

「はい」

何処か強くなった龍之介に、伊吹は微笑む。

見えない別れを思っては泣いていたあの頃とは、見違えるほどの成長ぶりだ。

「後悔はしてませんか?」

「お前は?」

やはりこうなる運命なのだろう。

こんなにも自然に、総てが受け入れられる。

「どんなに苦しんでも、悩んでも、お前と生きて行けるなら、俺は迷わん。」

馴れ合いでなく、一時の情熱でもない永遠の想い。そこに辿りつく為の道程が今でも愛しい。

「今思うと、あの頃は、お前が一番苦労したやろ・・・」

大人の分別がつくようになると、龍之介は昔の突進振りが苦々しくもある。

「物凄い甘えたでしたからねえ・・・」

甘やかしたのは・・・・伊吹・・・

「甘えて欲しいんやろ?」

必要とされている実感が伊吹には、必要なのだ

「東京に来た記念に、久しぶりに甘えて見ますか?」

「似合わんから・・・そういうのは」

 

が・・・・

東京という場所の魔力は2人を自然に引き寄せる・・・・

 

想いを胸に秘めた切ない日々も、想いが叶った幸せな朝も、ぬくもりに包まれた幸せな幾千もの夜も・・・

それら総ては、今を形作る道程。

 

旅の途中で振返った懐かしい風景なのだ。

 

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