東京の夜 1

 

「鬼頭さん!」

チェックインした部屋の前で拓海は悲鳴を上げる。

「何か、不都合でも?」

拓海の部屋のキーを差し出した龍之介は、首をかしげる。

「4人一部屋じゃないんですか!」

「まさか・・・修学旅行とちゃいますよ・・・」

つまり、紀子と拓海は一部屋与えられたのだ。

「じゃあ・・紀ちゃんは、お義兄さんと同室で・・・」

「先生、何で私が、先生と一緒の部屋で寝なあかんのですか!」

龍之介の突っ込みに、返す言葉も無い拓海。

「結婚前の男女が同室と言うのは、倫理的にどうかと・・・」

「結婚する仲なんでしょ?!」

こんな事で、もたつくとは思っても見なかった龍之介はイラつく・・・・

「紀子は・・・どう思う?」

見るに見かねて伊吹は紀子にふる・・・・

「別に・・・いいよ。一緒で。」

「ホラ。女の方で気にせんというてるんやから、さっさと入ってください」

拓海にキーを押し付ける龍之介

「お義兄さん・・・それでいいんですか?」

「未成年じゃあるまいし・・・今更、反対してどうします?」

拓海の味方は一人もいなかった。

龍之介は伊吹の肩に腕をかけて、拓海を威嚇する

「先生、どうでもええんですが、私らの邪魔したら承知しませんよ」

(ひえ〜〜〜〜)

間近に見せ付けられる2人の関係に、拓海は固まる。

向かいの部屋に消えて行く龍之介と伊吹を見つめつつ、紀子も現実を知る・・・

「しょうがないねえ・・・観念して部屋に入ろう」

苦笑しつつ紀子は、拓海の腕を引っ張った・・・・

 

「拓海さんお茶どうぞ」

とりあえず備え付けのポットでお茶を入れる

「はあぁ・・・ほんとにそういう仲なんだ・・・あの人達・・・」

往生際が悪い拓海は、まだ困っていた。

「いつも通りで行こうよ・・・何焦ってるの?少し前までは、私なんか女とも思ってなかったくせに」

(そうか・・・そうだなあ・・・)

急激な自分の変化に驚く拓海。

「でも、それって、ちゃんと恋愛してるって事だよね」

(ああ・・・そうか)

理由が判れば、なんとなく不安は無くなってくる・・・

「もしかして、医大の時、失恋して以来、彼女 いなかったの?」

「女性不信に陥ってねえ・・・」

そうかあ・・・・

男女交際の感覚を、完全に忘れているとみた・・・・

「私は拓海さんのペースにあわせるから、無理しなくていいよ。自然体で」

と、紀子は立ち上がる。

「先にシャワーするね」

妹みたいだった紀子が母親に見えた・・・・

彼女なら、自分の総てを受け入れて、包み込んでくれる気がした。

伊吹に似た、包容力を持つ紀子・・・・

いつの間にか、拓海はくつろいでいた。紀子との空間は居心地がいい

そんな気になってきていた・・・

(そうか・・・そういうものなのだ・・・・)

拓海は静かに微笑む・・・・・

 

 

 

浴室から出てきた拓海はドライヤーで髪を乾かし寝室に入る

紀子は今日の極度の緊張による疲れから、深い眠りに入っていた。

拓海の兄に会う事が、どれだけ気を使うことか・・・・・

「お疲れさん」

紀子の髪を撫でつつ、拓海は呟く。

いくら見ても、見飽きないと思うくらい可愛い寝顔を見つめつつ、拓海はそのとなりに身を横たえる。

 TOP          NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system