東京行き 5

 

7時前、ホテルのロビーに井上と龍之介は戻ってきた

「メシ食うていけ」

「いえ・・・事務所に帰って、残りの仕事せなあかんので・・・」

龍之介の誘いを、井上は辞退して一礼して去ってゆく・・・・

今ここに向かっているから、レストランでオーダーして待つように伊吹から電話があったので

とりあえずレストランに向かう

 

オーダーを済ませて、煙草に火をつけ 伊吹を待っていると、斜め後ろのテーブルに座っている

背の高い優男が近寄ってきた

「お一人ですか?」

その男を見上げた龍之介は、内心驚いた。

忘れもしない諸悪の根源、悪夢の実体・・・・・

(三条雅臣・・・・・)

あの頃と少しも変わっていない。

美しい顔に、粘りのある視線で、龍之介を舐めるように見つめる・・・

(気付いて無いのか・・・・)

龍之介は苦笑する

「何処かで、お会いしたようですが、どこでしたか・・・」

心の動揺は見せず、龍之介はカマをかけてみる。

「夢の中じゃ無いですか?」

バカタレ!!!

半ギレの龍之介は、しかしポーカーフェイスを保っている。

(完全に気付いとらんなあ・・・)

「連れがいますんで・・・」

「じゃあ・・・お連れが来るまで、お話でも・・・」

図々しく、あろうことか、龍之介の隣りに腰掛けてきた・・・

マジギレした龍之介が三条に向き直った時、後ろから声がした。

「組長、お待たせいたしました」

静かな声だが、かなり怒っている伊吹が、三条の後ろに立っていた。

「お連れさん来たの?残念だなあ・・・」

立ち上がろうとする三条の肩を伊吹は掴む

「ゆっくりして行かはったら・・・・どうですか?三条のぼん・・・」

げっ!

三条は真っ青になる。

後ろにいるのは、忘れもしないあの鬼頭組若頭・・・・藤島伊吹、その人である。

「お久しぶりですね・・・ウチの組長に何か用でも?」

「君は・・・」

「鬼頭組の8代目を継ぎました、鬼頭龍之介です。先輩、いつかは、大変お世話になりましたねえ・・・」

え〜〜〜〜!!!!

(違うじゃないか!別人のように変わってるじゃないか!そんなのありか!)

ぐいっ

伊吹は三条の肩を抱き寄せて耳元でささやく

「二度と近づくな言うたやろ!今度やったら、タダじゃ済まんぞこのタコ!」

半泣きで去ってゆく三条を、不思議そうに見送る拓海と紀子・・・・・

 

席についても、伊吹は何処となく機嫌が悪い。

「誰なんですか・・・」

紀子はそっと龍之介に聞く

「先輩です。大学の」

「どう見てもあれ・・・ナンパですよね・・・」

拓海が隣から漂ってくる伊吹の殺気に怯えつつ、ささやく。

「伊吹、あいつ、俺やて気付いとらんかったぞ」

「当たり前です。判ってたら、近づきますか!」

それもそうだ・・・

あの時、あんなに脅したのだから・・・・

「伊吹は判って、俺は判らんかったんやな・・・」

彼は天然微少年の龍之介しか知らないのだから仕方ない・・・・

「何か・・・あったんですか・・・過去に・・・」

好奇心に駆られて拓海は訊いて来る

「あいつは大学生の頃 組長にちょっかい出しよったんです」

ああ・・・それで・・・・

しかし・・・伊吹に対しては、トラウマ的な恐れを感じているらしかった

「かなり脅しましたね・・・・お義兄さん・・・」

「当然でしょう」

にこやかに微笑む伊吹・・・・

しかし、伊吹のやくざの本性を見てしまった、拓海と紀子は笑えなかった。

 龍之介は心中穏やかではなかった。

三条にとって、伊吹の脅しがトラウマであるように、龍之介には三条の事はトラウマだった。

「あいつボコボコにせんと、気がすまん」

煙草の火を消しつつ、龍之介が呟く。

「堅気に手ぇ出したらあきません。」

「それが、あの時、あいつにドス突きつけて脅した奴の言うことか・・・」

ふぅ〜

ため息と共に沈黙の伊吹と龍之介・・・

傍で、そんな会話を聞いている紀子と拓海は やはり彼らは、やくざなのだと確信する。

 

良くも悪くも”あの頃”にタイムトリップな東京旅行だった・・・・

 

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