東京行き 4

 

龍之介と伊吹、拓海と紀子の4人が東京に着いたのは昼過ぎ。

予約した、ホテルのレストランで昼食をとり、部屋に荷物を置いてロビーで打ち合わせする。

 

「島津の兄さんと、ここで合流して約束の場所に私らは向かいますが・・・組長は?」

「鬼頭商事の方は明日、お前と行くとして・・・今日は叔母さんのところに挨拶やな。」

薫子も第一子を出産したばかりなので、哲三から出産祝い預かっていた。

「組長の方が早く済むと思うんで、部屋で待つなり・・・遅くなるようでしたら、先にお食事してください」

ああ・・・・龍之介は頷く・・・

 

「組長・・・・」

鬼頭商事の井上がやって来た

「お久しぶりです。組長、兄さん」

龍之介の脇に立って、挨拶する井上

「変わりないか?」

「はい。組長もすっかり、貫禄出てきはりましたなあ・・」

井上とは、龍之介の襲名式以来だ。

「今日は、井上に運転手頼みましたから。」

ああ・・・・伊吹は本当に、そつが無い・・・一人で行動するつもりでいた龍之介は、苦笑する。

「鬼頭の8代目が一人でうろうろしたら、あきませんよ」

実は、別行動が心配でたまらない伊吹・・・

「行ってくる」

立ち上がり、井上と去って行く龍之介を、伊吹は立ち上がって見送る

それと入れ替わりに、島津が笑いながらやって来た

「藤島〜なんちゅう顔しとんねん。」

「え?」

「若ぼんと別れとうない!!顔にそう書いてあるぞ〜」

「兄さん・・・」

穏やかな笑みの奥に、圧力のある瞳を向ける伊吹・・・

「ついて歩きたいやろ?ホンマは?」

笑いつつ島津は椅子に腰掛ける

「で、藤島の肩書きはどうするんや?」

鬼頭商事の支店長と言う事もできるが・・・・

「そのままを言いましょう」

拓海が笑う

「でも・・・」

紀子は心配する。相手はエリートサラリーマンだ・・・・

「大丈夫、兄貴たちは、そういうこと気にしません。父が花園医院していた頃も、うちはやくざや

チンピラの患者いましたし、今更そんな事にびびる人でもないんです。昔 僕ら、倉田組の組長さんに懐いてて、

抱っこしてもらったことありますよ」

倉田組は昔、大阪でかなり大きな組だったが、時の流れと共に消えてしまった・・・

「ええんですか?ホンマに」

伊吹は拓海を見つめる。

「この前、結婚するって電話したら”相手は女か?”って聞かれちゃって。僕みたいなもんと結婚してくれる人が

いただけで奇跡だし、感謝なんですって・・・」

「だから・・・反対はしないって事?」

紀子があきれて聞き返す。

「逃げられないように、つかまえとけって」

拓海の言葉に紀子は憤る。

「ヒドイ!拓海さんの何処が足りなくてそんな事!」

拓海さんかい・・・・・何時の間に・・・伊吹は苦笑する・・・・

「そう言ってくれるのは紀ちゃんだけだよ・・」

アホか・・・・

自分たちの事を棚にあげて、伊吹はひたすらあきれる・・・

「まあ、先生がその覚悟やったら、万が一の時は私もフォローさせていただきますから」

島津は余裕の笑みを浮かべる。

 

3人は待ち合わせのオフィス街のカフェに向かう・・・

兄達も忙しいらしく、仕事の合間をぬっての会合である

店に入ると40半ばの男が、拓海を見つけて手を上げる。

「兄さん!」

「元気か?」

拓海にそっくりな、人懐っこい笑顔で拓海の肩を叩く銀行の頭取。花園拓也・・・・

エリートらしからぬ愛想のよさに、他の3人は固まる・・・拓海の兄と言えば兄らしい愛想のよさではあるが・・・

「初めまして、拓海の兄の花園拓也です」

「鈴木紀子です」

「兄の藤島伊吹です」

挨拶する伊吹と紀子・・・・

「兄さんこちら・・・」

島津を見て、拓也は驚く

「島津先生じゃありませんか・・・・」

「ああ・・・花園さんの弟さんやったんか・・・」

「お知り合いですか・・・」

伊吹が島津を見る。

「何度か、個展を開かれる時に、ご融資をさせていただいたお得意様です」

拓也の言葉に伊吹は苦笑する。何処までも顔の広い島津である

「島津先生が仲人してくださるなんて・・・光栄です。式は盛大に致しましょう」

え・・・・・

市民会館でも借りるつもりだった拓海は引きつる

「費用は私のところと、拓郎のところで負担しますから、段取りは済みませんが、お兄さんの処でお願いいたします」

「それはかまいませんが・・・申し訳ありません・・・」

恐縮する伊吹。

「恐縮しないでください、お義兄さん。お義兄さんは新居の方、用意してくださると言うんですよ・・・兄さん」

苦笑する拓也

「コイツに甲斐性が無いもんですから・・・お世話おかけいたします」

そうこうするうちに2番目の兄 拓郎がやって来た。

「遅くなりました」

笑顔三兄弟がそろった・・・・

「紀子さん、美人ですね。驚きました。こんな奴の嫁になるなんて・・・・いいんですか本当に・・・」

挨拶が終わり次第、拓郎はそう切り出す。

「お兄さんも男前で・・・ご職業は何ですか?」

来た・・・紀子と伊吹はそう思った。

「関西鬼頭組の幹部です」

「鬼頭さん?鬼頭商事の?そこもお得意様なんですよ」

どうやら顔が広いのは拓也の方らしい

「東京支店ありますよね、そこです。鬼頭哲三さんお元気ですか?代替わりされたと伺いましたが・・・」

「ああ、今はごっつい美人の若い8代目が継いどるよ。藤島はその側近や」

島津は調子に乗って話し出す。

「今日はお越しじゃないんですね」

「別件で席、外しとるわ」

やくざ・・・という後ろめたさが、何処かに飛んで行ってしまった・・・・

気が抜ける伊吹と紀子・・・・

「ご両親の離婚でお二、人生き別れになっておられたとか・・・大変でしたねえ」

かなり詳しい事まで拓海は兄に話したらしい

 

「紀子さん。拓海を宜しくお願いします」

別れ際にそう言って、兄達は去っていった・・・・

 

「ええお兄さんやな」

島津が笑ってそう言った・・・・・

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