東京行き 2

 

外回りから帰ってきた南原と岩崎は、鬼頭が何時になく賑やかなのに首をかしげる。

「兄さんお帰りなさい。島津の兄さん来てはりますよ」

高坂が出迎えた。

「それで、賑やかなんか・・・」

「ぼんを囲んで大騒ぎです」

ぼん・・・その響きが懐かしくて、南原は口元が緩む。

 

 

「信さん・・・俺にも優希、抱かしてくれよ・・」

「あかん、若ぼんは、まだ首のすわらん赤子抱くのは危険や・・」

自分の子なのに、抱かせてももらえない龍之介は拗ねていた。

「大丈夫ですよ・・・気ぃつけて抱いたら・・・」

聡子は助け舟を出す。

「やろ?」

「藤島〜抱いてみぃ〜〜」

伊吹に優希を差し出す島津に、完全にキレる龍之介。

「伊吹はようて、俺はあかんて、ナンでや!それ・・・」

それには構わず、伊吹は島津から優希を受け取る。

「おお、手つきも慣れたもんや・・・お前、赤子の世話もしとったんか?」

これ以上無いほど、幸せそうな伊吹は首をふる。

「いいえ。初めて抱きますけど」

「器用やなあ・・・お前は。若ぼん抱くのも、末ぼん抱くものお手のもんかい・・・」

「兄さん!」

本気で起こっている伊吹の眼差しに、島津は苦笑する

 

居間を覗いた南原は、この騒ぎを見てあきれていた・・・・

あちこちオカンだらけである・・・・

「ぼんは大スターですね」

高坂は後ろで、そう言って笑う

どうやら島津の優希の呼称は、”末ぼん”になったらしい。

 

「組長もどうぞ・・・そっと・・頭支えて・・・」

伊吹は気を使って、拗ねている龍之介に、優希を差し出す。

こわごわ受け取る龍之介・・・・・両脇で聡子と紀子が心配そうに支える・・・・

と・・・いきなり泣き出す優希・・・

「おい・・・俺見て泣くなよ〜」

困り果てる龍之介から、優希を抱き上げ、聡子は笑う

「おなかすいたんですわ・・・お乳上げてきます」

聡子と優希は部屋に戻っていった。

「びっくりした・・・なんで、俺見て泣くんや・・・あいつ」

「腹減った言うてるやろ〜若ぼん・・・」

島津は大笑いする

「お兄ちゃんが、子供好きなんて知らなかった」

紀子も笑って言う

「伊吹は子供の扱い上手いからな」

7歳の時からオカンしているのだ・・・・

「特に若ぼんの扱いは もう最高・・・」

「信さん!」

今度は龍之介にしかられる島津・・・・

「島津先生って、面白い方ですね」

有名な陶芸家と聞かされていた紀子は、実物とのギャップに戸惑う。

「おちょくり専門なんですよ、こう見えても、現役時代は、泣く子も黙る鬼頭の裏ボスやったけどなあ・・・」

龍之介は苦笑しつつ、そう言う。

「今でも兄さんは”裏ボス”や」

伊吹がそう付け足すと、紀子は大笑いする。

「紀ちゃん、仲人は真面目に勤めるさかい、心配すんな」

初対面ですっかりなじんでいる島津。紀ちゃん扱いである

「宜しくお願いします・・・」

この面白すぎる鬼頭ファミリーに、どっぷり浸かる紀子だった。

 

「そうそう、兄さん、紀子と、婚約者のお兄さんとこに挨拶しに東京行きますから、その時は先方にも、

いっぺん顔出してください」

伊吹は思い出したように言う。拓海の兄達は皆東京にいる。

「何してる人らや?」

「皆さんエリートサラリーマンなんです・・・銀行の頭取とか・・・証券会社の専務とか・・・」

紀子は少し気後れしつつ、そう告げる

「おもろいなあ・・・その弟が、ボロ病院の医者かい?」

「兄さん、拓海先生も、大学病院に引き抜かれるほどの優秀な医者なんですよ・・・本当は」

ほ〜〜〜〜

島津は頷く。

「何せ・・・内科も外科も、神経外科も 形成外科も出来るマルチですから・・・」

紀子の言葉に、島津は眉をしかめる

「なんや・・・雑多な医者やな・・・・」

伊吹と紀子は、そんな島津をみて大笑いした・・・

 

 

ふ〜〜

南原はきびすを返す

「兄さん・・・」

高坂が後を追う

「入り込めんわ・・・」

出る幕無しの南原は、おとなしく引き下がる・・・・

「あ、先代は?」

「淀川に。室戸の兄さんに呼ばれて・・・」

私的な用事のようだ。

(俺のことかなあ・・・・)

ぼんやり、そんな事を考える南原

「兄さん・・・今となっては、記憶喪失やった頃の藤島の兄さんが恋しいですね・・・」

当時はあれほど違和感があったのに、振り返ればなんとも和気藹々な日々であった。

「なんや・・・今の兄さんに不満でもあるんか?」

「無いですけど・・・あの天真爛漫な笑顔・・・もう一回、見たないですか?」

見たい。が・・・やはり南原には、今の伊吹がシックリ来るのだ。

「あの時の事、兄さんには言うなよ・・・・悩ませるような気がするからなあ・・・」

「はい」

組員達の間では、天然伊吹は門外不出のタブーなのだった・・・・

皆、その事に関しては固く口を閉ざしている

 

いい思い出として胸にしまいつつ・・・・

 

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