復活 4

 

次の日、病院に行くと、病室に聡子は入っており、実母の佳代子夫人が付き添っていた。

「姐さん、こられてましたか・・・」

「龍之介さん、すみません。昨日は竹彦の襲名式で席・・外せませんと・・」

運悪く、吉原の長男が組長を襲名する日と重なったのだ。

聡子は嫁に行った身、竹彦、最優先は仕方ない。

「鬼頭も人手はありますからご心配なく。昨日も私の留守中、藤島が手際よく処理したお蔭で

大事無く済みました」

佳代子は伊吹に頭を下げる。

「礼を言います、男の身でお産にてきぱきと対応できるやなんて、ホンマに鬼頭さんは

ええ側近をもたれましたなぁ」

「聡子は?」

「さっきまで起きてましたが・・・今は休んでます。」

そういって、佳代子は2人に椅子を勧めたが、龍之介は辞退し、新生児室に向かう。

「昨日は聡子の事で頭一杯で、子供にも会えんかったな・・・」

確かに、生まれたと喜んでいる場合ではなかったが・・・

「どの子か、わかりますか?」

ガラス越しに並べられた新生児を眺めつつ、伊吹は言う

「わからいでか、俺の子や・・・・」

と言っても・・・・皆同じ顔に見える・・・

「ああ、鬼頭さん〜優希君はここ」

通りがかった看護婦が教えてくれる

「・・・・皺くちゃやな・・・・」

父親のわが子 対面第一声・・・・

「赤子は皆、こんなんですよ。」

伊吹がフォローする。

佳代子がお湯を汲みに行った帰りに、2人の横にやってくる・・・

「可愛いでしょう?この子が一番可愛いわ・・・」

はあ・・・

そう思えない龍之介・・・・

「龍之介さんにそっくり・・・」

(ほんまか?)

龍之介は伊吹を見る。笑いをこらえる伊吹・・・・

3人は再び聡子の病室へ・・・・・

「傍にいてやりたいけど、竹彦も襲名したばっかりで、ウチも取り込んでて・・・

看護人派遣しますから・・・」

部屋でお茶を入れながら佳代子はそう言う

「いえ、もう頼みました、知り合いの看護婦に。」

「そうなんですか・・・」

そういえば、朝出がけに龍之介は、何処かに電話して頼んでいた・・・

伊吹は思い出す。

 

しばらくして、佳代子は吉原の組員が迎えに来て帰っていった・・・・

 

 

 

「龍之介さん・・・」

眠りから覚めた聡子がそう呼んだ

「姐さん、おめでとうございます、よう頑張らはりましたね。」

伊吹の様子を見て、聡子は首をかしげる

「伊吹さん、もしかして・・・記憶・・」

「戻った。お前のお蔭や」

え・・・・

意味の判らない聡子・・・・

「でも、よかった。」

「心配おかけしました」

もうこれで一安心・・・聡子は微笑む。

「ああ、付き添いの看護人雇った。もうすぐ来るから。」

言っている先から、病室のドアを開けて紀子が入ってきた。

「おはようございます」

「紀子さん・・・」

聡子が驚く

「花園医院は?」

「当分は拓海先生が一人でします。バイト料たくさんくれるって言うから来ました。

結婚するとなると、お金かかるし」

相変わらず明るい。

「紀子さん、伊吹とお茶してきはったら・・・」

と龍之介は伊吹を見る

「そうですね 病院のカフェにいきましょう」

あ・・・・・

突然、表情を硬くする紀子

「話は夕べしました。知ってますから伊吹は。」

龍之介の言葉に頷いた紀子は、伊吹について歩き出す。

 

 

「鈴木紀子さん、ですね。」

コーヒーをはさんで、向かい合って座ると伊吹はそう言った

「はい。」

「お母さんは?」

「亡くなりました。お兄ちゃんの事、最後まで気にしていました。私に”正美を探して欲しい”って。」

伊吹は眼を伏せる・・・・

「お兄ちゃんを引き取るために行ったんです。お母さん、アパートに・・・でも・・

そのときはお父さん、夜逃げした後で、お兄ちゃんは何処行ったかわからなくて・・・お母さんずっと謝ってました」

涙声になり紀子は、息を接ぐ

ポケットからハンカチを取り出すと涙を拭く・・・・その時一緒にポケットから出てきた携帯をテーブルに置く

「それ・・・」

伊吹はその携帯についている、古びたクマのマスコットに目をとめる。

「ああ・・・覚えてます?これ・・・」

最後に紀子に渡したプレゼント・・・

「お兄ちゃんがくれた物。」

「まだ持ってたんか・・・・」

泣く姿はあの頃と少しも変わっていない。

伊吹は紀子の頭に手を置く

「大きいなりして、泣くな。」

「お兄ちゃん・・・・」

少しも変わらない温かい手・・・・

「記憶が戻る前・・・お前の夢、見てた・・・最後に会うた時の。」

「記憶ない間 一緒だったのに・・・・お兄ちゃん覚えてないでしょ?」

ああ・・・

すまなさそうに笑う伊吹。

「マジ好きだったんだから〜」

そう言って大笑いする紀子

「今は?」

「今のお兄ちゃんも好きだよ。でも、一番愛してるのは拓海先生だから〜」

「婚約者?」

うん。

幸せそうな紀子の顔を見つめつつ、伊吹は微笑む

「結婚式には参席してね」

「やくざでもええんか?」

「やくざに見えないって。お兄ちゃんは」

「これで思い残す事は無いなあ・・・妹に会えたし、鬼頭のぼんも生まれたし、お前も結婚するし・・・」

「爺さんみたいな事言わないで!さあ、行こう、仕事仕事!」

紀子は立ち上がる

これは出会いなのだ・・・これからずっと、会って話す機会は永遠にある。

紀子と肩を並べて歩きながら、伊吹は未来に思いを馳せる・・・・・

 

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