復活 2

 

 「とにかく、お前は記憶なくしてて、堅気になっとったから、いきなり鬼頭に来たら、びっくりすると思うて

しばらくここで俺が面倒見てた。けど・・・鬼頭に帰ったら、帰ったで、お前は岩崎や高坂に懐いて、

すっかり溶け込んでた」

「懐いてたんですか?」

龍之介は頷く。

「記憶喪失中のお前は 天然100%の天真爛漫やったからなあ・・・」

想像もつかない伊吹。

「えらい事になってましたね・・・・」

「俺の留守中に、聡子が破水して、お前が病院に運んだ。その後 集中治療室に運ばれる聡子を見て、

お前はおふくろとの、最期の場面を思い出して、倒れた・・・・らしいと睨んでるが・・・」

伊吹は頷く

「そうです。覚めるまでの間、夢を見てました・・・紗枝様の夢、それと・・・」

「それと?」

「紀子・・・妹の夢・・・」

龍之介はふと、顔を上げる。

「忘れたつもりでいてたのに、まだ忘れてないんですね」

(忘れるつもりなんか無いくせに)

伏せた龍之介の瞳から涙が零れる・・・・

「龍さん?」

伊吹は龍之介の涙に驚く

「忘れてないやんか。お前・・・金庫に、妹の写真入れてたやろ・・・」

「!何で知ってはるんですか?」

「記憶喪失中にお前は、銀行の通帳探して、金庫開けたんや」

が〜〜〜〜ん

ショックな伊吹・・・・

「・・・龍さんは・・そやから、中身、見はったんですか・・・」

小学生の時の、伊吹に当てた手紙、プリクラ写真、自分の写真数枚・・・金庫の中身が思い出されて

龍之介は恥ずかしさに俯く

「その反応・・・見ましたね!」

「見た。お前より、俺のほうが恥ずかしいぞ・・・」

目の前真っ暗な伊吹・・・

 

無言の時間が、長く続いた・・・・

 

「あ、あのな・・・」

いたたまれず口を開く、龍之介・・・

「・・・・龍さん。記憶喪失中の私の行動、一つ残さず、話してもらえますか?」

何か、大変なことをしでかしているような予感が、伊吹を襲う・・・

知りたい気持ちはわかるが、話していいものかどうか、龍之介は戸惑う。

「何かしましたね?」

いいあぐねている龍之介を見て、伊吹はため息をつく。

「い、いや・・・何も無い」

再び沈黙が蘇る・・・・

 

「そんなに言いにくい事、しましたか?」

 

脅迫めいた伊吹の突っ込みに、半泣きの龍之介・・・

「気をしっかり持って、受け止めろよ。」

なぜ、伊吹の記憶が戻った今、自分がこんな目にあうのか・・・龍之介はため息をつく

「俺との事、記憶に無いお前に”お前は俺の情夫(いろ)や”と言うことが出来んまま、ここで半月暮らした。

第一日目に、お前の前で泣いてしもうた俺に、お前は無意識にキスした・・・いつもしてるみたいに。」

え・・・

伊吹は首をかしげる

「記憶無いのにですか?」

「体が覚えてたとでも言うか・・・その後、お前は 俺にセクハラしたとか言うて落ち込み始めた。

俺のこと好きみたいやけど、男が男を好きなんはおかしい・・・とか悩み始めた・・・」

伊吹は声も出ない・・・・

「挙句の果てに、一緒にいると 襲うかもしれんから避難せいとまで・・・」

(なんですて???)

石のように固まる伊吹・・・・・

「でも、うれしかった。最初は俺のこと 忘れてるお前にショック受けた。俺のことだけは

忘れんといて欲しかったから・・・・でも、忘れられてた・・・それでも、俺のこと好きみたいな気がするて言う

お前の言葉に、知識でも記憶でもない、もっと奥深い繋がりを感じた・・・忘れたんと違う、思い出せへんだけや

そう思えた。」

「龍さん・・・・」

伊吹の硬い表情が解ける・・・

「お前は、俺がお前の事、思うほどには俺を愛してないと思うてた。俺ばっかりがお前の事好きで、

お前は何か しかたなく、俺に付き合うてんと違うかと・・・それでも愛されたかった。その想いしかなかった。

それが、記憶なくして、俺のこと好きで悩んでるお前見て、昔の事思い出して・・・」

「昔?ですか?」

龍之介は頷く

「大学生の・・・2人暮らし始めた頃。俺は何の考えもなしに、お前に甘えたけど、男で、未成年の俺のこと、

好きでも どうにもでけへんかって、悩ませたんかなあ・・・とか。さらに無意識に誘惑してたんかなあとか。」

伊吹は龍之介の成長に驚く。この短期間に、そんなことまで考えるようになったとは・・・

「行方不明になられて、もう会えへんと思うてたから、俺は、記憶無くても、俺のこと好きでなくても、

お前さえいてくれたら・・・それだけ思いつつ・・・」

涙で何も言えなくなった龍之介を、伊吹は抱きしめた・・・・・

 

自分は記憶を失くして、龍之介の事を忘れている間、龍之介は伊吹を案じて、心休まる暇も無く暮らしたのだ・・・

「辛い思いさせて、すみませんでした」

「それでも、信じてた。お前は俺のところに帰ってくると・・・いつかお前が言うてた言葉、信じてた。」

 

ーたとえ死んでも、来世で待っています・・−

 

「龍さん・・」

どうしても離せない。運命に叛いても、龍之介だけは離せない。

「この事件で、俺は結構 無欲になったつもりでおったけど・・・お前が元通りになると、また逆戻りした・・・」

愛されたい欲は限りなく湧き上がる・・・

一秒も離れていたくない・・・・

龍之介は、伊吹の背に腕をまわして強く抱きしめる。

離したくない、少しの隙間さえ許せない。

 

「一人で、よう頑張らはりましたね・・」

伊吹の瞳からも涙が溢れた。

 

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