未来への扉 4

 

出張執刀を終えた拓海は、大学病院の廊下を歩いていた・・・

「拓海先生!!!」

産婦人科の看護婦である、松下礼子が駆け寄ってくる。

「助けてください、緊急なんです」

「ダメですよ・・・僕は、産婦人科の免許取ってないんだから」

「違います。血をください」

はあ・・・・・・

「O型でしたよね・・帝王切開した患者さん、輸血しなきゃいけないんです。O型のストックが不足で・・・」

(だからって医者の血を採るかなあ・・・)

半分呆れつつ、承諾する拓海。共に産婦人科の病棟に向かう。

「鬼頭組の・・やくざの姐さんなんです、もしもの事があったら、殴りこまれるかも知れません・・・」

やくざの姐さんに、かなりびびっている礼子。

「え?鬼頭組の姐さんって・・鬼頭聡子さん?」

「知ってるんですか?」

「うん、ちょっとね・・・判った、思いっきり採っていいよ」

気合の入った拓海に、礼子は戸惑う

「足りなかったら、うちの病院のストック持ってこさせようか?」

「それ・・・先生がこまめに自分の血を採血して、溜め込んだストックですか?」

それには答えずに、拓海は紀子に携帯で電話する。

「・・・・あ、紀ちゃん?至急大学病院まで、O型の僕の血液のストック持ってきて。タクシーで。

大丈夫、料金は後で鬼頭の組長に請求するから・・・うん、そうそう、姐さんが出産したんだ・・・頼むよ」

電話を切り採血室に入る拓海。

 

「あ、子供は?」

「はい、無事です。元気な男の子」

拓海が寝台に寝ると、礼子は腕を縛り注射器を取り出す

「ぎりぎりまで採っていいよ」

 

 

「南原!どうした」

駆けつけてきた龍之介は、伊吹を抱える南原を見つけて顔色を変える。

「男の子です。無事に産まれました。で、姐さんの様態が悪化して、集中治療室に・・・

その姐さん見て、兄さんは・・・・」

「倒れたんか・・・」

「”さえさま”・・そう呟いていきなり・・・」

(紗枝・・・)

龍之介は伊吹の顔を覗き込む。

そこへ、輸血用の血液を持って通りかかった礼子に、南原は声をかける

「すみません、看護婦さん、連れが貧血起こして・・・何処かで休ましてもらえませんか・・・」

「そこ・・・採血室のベットあいてるんでどうぞ。そこに内科も外科も出来る医者がいますから、

もしもの時は診て貰ってください」

そう言いつつ去ってゆく後姿に頭を下げて、南原は採血室に伊吹を運ぶ

「なあ・・・内科も外科も出来る医者て、どこかの誰かみたいやな・・・」

伊吹の運搬を手伝いつつ龍之介が呟く・・・・

 

 

採血室には・・・・・

その誰かが、血を抜かれて横たわっていた・・・・・

 

「先生!」

「献血しちゃいました・・・」

にこやかに笑う拓海の隣のベットに、伊吹を寝かし、龍之介はあきれる・・・

「もしかして、それ・・・聡子の・・」

「はい、そうです。男の子ですって?元気でよかったですね・・あとは聡子さん。」

笑顔ではあるが顔色は悪い・・・

「寝ててください」

南原は拓海を横たわらせる。そして、龍之介に傍の椅子を持ってきて勧める

それに腰掛けて、龍之介はため息をつく。

「紗枝・・・そう言うたんか・・こいつ・・・」

高坂は南原にも椅子を勧め、南原は落ち着かない腰を一旦椅子に預けた。

「誰なんですか?さえって・・・」

「お袋や、つまり、先代姐 鬼頭紗枝」

「組長が7歳の時、なくならはった・・・・」

南原の言葉に龍之介は頷く

「聡子はお袋に似てる、多分、あの時の事思い出したんやろ・・・」

紗枝の最後の言葉は、伊吹にむけられた”龍之介を頼む”という切なる願い。

「お袋は伊吹にも母親代わりやった・・・親と生き別れて、出会った親代わりと死に別れ・・・

2度も親を失くしたあいつは、あの時、どれだけショックやったか判らん。ただ、傍に俺がおった。

泣き続ける俺が。あいつは泣く事も、哀しむ事も出来ずに、俺を支えた・・・今の聡子を見て、

あの頃の思いが溢れても不思議やない。」

 

自分が泣きたくても、泣けず。龍之介を励ます事だけに一生懸命だった17歳の伊吹・・・

「お前には、負担ばっかりかけてきたなあ・・・」

伊吹の顔を見つめつつ龍之介は呟く。

「組長・・・ここは私らに任せて、姐さんのほうを・・・」

南原の言葉に、龍之介は頷き立ち上がる

「すまんな」

「あ、これ・・・」

高坂が思い出したようにポケットから、拾い集めたロザリオの玉とメダイを龍之介の前に差し出す。

無言で頷き、龍之介はそれを受け取り部屋を出てゆく・・・・

 

「お袋・・・聡子を守ってくれ・・・」

右手の中のロザリオの玉を見つめつつ そう呟いた。

 

 

TOP          NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system