未来への扉 2

 

 夕食を終えて、龍之介は寝室で横になっている聡子に食事を運んだ

「大丈夫か?メシ食わなあかんぞ・・・」

ゆっくりと起き上がる聡子、かなり重そうだ

「すみません、お腹が張ってきて・・・」

「もうすぐやからなあ・・・」

「後でいただきます。皆さんはもう 夕食済みましたか?」

「ああ」

一旦、テーブルにトレイを置くと、龍之介は聡子の横に腰掛ける。

「ほったらかしてすまん」

「色々ありましたからねえ・・・もう、覚悟してるんじゃないですか?この子も、9代目の。」

と腹部に手を当てる聡子。鬼頭の9代目・・・それは避けられない宿命・・

「拓海先生も婚約されて、よかったですね。あとは伊吹さんの記憶が戻るだけ。」

もうこれからは、何事も上手くいく。そう信じたい。

「伊吹の事はお前にも苦労かけたなあ」

あの時は・・・

聡子は思い出す。別人になってしまった伊吹・・・

記憶の無い事を知り、どれだけ心を痛めたか判らない。

しかし・・・

記憶の無いままでも、それなりの日常をとりもどせた。

「龍之介さんは、案外強いんですね」

「弱そうに見えるか?」

聡子の言葉に、不満げに聞き返す龍之介

「伊吹さんのことに関しては、全然強くないですよ。でも・・・最近は、伊吹さんをしっかり支えてるって感じですね」

伊吹に もたれかかって生きてきた龍之介が、記憶喪失事件以来、

伊吹を保護する側に立っていることが自分でも不思議だった

「色々、判ってきた事もある。結構伊吹には迷惑かけてきたみたいやしなあ・・・・」

伊吹は、迷惑とも思ってないだろう・・・そう聡子は思う。

そうやって、変化しながらも、2人は変わらぬ想いで暮らすのだろう。

聡子は、龍之介を見上げて微笑む

「跡継ぎが生まれたら、龍之介さんを伊吹さんに返してあげます」

え?

「それでも、行きっぱなしはダメだけど。実質上、龍之介さんは、伊吹さんだけの物になっていいのよ」

聡子の言葉は思いやり・・・でも龍之介を傷つける・・・

自分をあえて、子供を生むための道具にしようとする言葉・・・・

龍之介は聡子の肩を抱く。

「なんや?俺はお払い箱か?子供が生まれたから俺は要らんのか。それに、逆やろ?

伊吹が俺のモンであって俺は伊吹のモンとちゃうぞ」

龍之介の優しさに聡子は感謝する・・・しかし、伊吹の事を思うと、苦しいのは事実。

その気があろうとなかろうと、子供というもので、聡子は永遠に龍之介を縛り付ける事が出来る。

龍之介の子供を生んだという事実だけで、妻の位置を確立するのだ。

それを見ている伊吹は・・・・

だから、聡子は伊吹を愛している。

そして羨んでいる

子供などという小道具がなくても、存在一つで龍之介を捕らえている伊吹を・・・

「聡子、これ持っとけ」

思い出したように、龍之介は聡子の腕に母の形見のロザリオを巻く。

「お袋の形見や。伊吹が行方不明の時、これに念じてたら、伊吹を探せた。お前の事も守ってくれるやろう」

「ありがとう。お預かりします」

その笑顔に懐かしい母の面影を見る・・・・

 

 

 

台所では、夕食後のコーヒータイムの雑談が花開いていた。

「南原さん、彼女いるんですか?」

相変わらず、天然伊吹は、組員の寵愛を一身に受けていた。

「そうですよ〜藤島の兄さん!桃香ちゃんていう美人の女子高生です」

高坂が調子に乗っている

「若いですね・・」

南原は、伊吹に言われると複雑な気持ちになる・・・

「そんなんと違います。妹みたいなモンなんです」

「ああ・・」

素直に納得している伊吹

「高坂さんは?」

「年中フラれっぱなしですわ・・・・」

はははは・・・・・

やくざとは思えない、ほのぼのした団欒のひと時・・・・

「そういえば・・・あのボロ病院の先生、看護婦さんと婚約したんですって?」

南原が思い出したように言う

「え〜!!!あの看護婦さん、藤島の兄さんに惚れてたんとちゃうんですか?」

「ああ・・・高坂さん、それは、お兄さんを慕うような気持ちで好きだったんですよ。拓海先生とは、

あんまり近すぎて好きなのかどうか よくわからなかったみたいです」

南原は頷く

「あの2人、夫婦みたいですけど、恋人となると違和感ありますからねえ・・・」

はははは・・・

伊吹は明るく笑う

「今じゃあもう、ラブラブ〜って感じで、患者さんたち あきれてますよ」

(やはり・・兄さんの妹だけあってバカップルか・・・・)

密かに頷く南原・・・・

 

伊吹の襲撃事件、そして行方不明・・・記憶喪失・・・・・

そんな不幸の果ての、妹との再会。

妹は婚約し、鬼頭組も跡取りの誕生を待つのみとなった・・・

 

禍福はあざなえる縄の如し・・・・

 

一度に色々な事件が起った・・・

これからは、幸多かれと南原はそっと願う・・・・・・・

 

 

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