未来への扉 1
6月に入ると、龍之介と伊吹は,鬼頭に帰ってきた。
何時気を失うか判らない伊吹を、独り置いて置けない龍之介は、伊吹を連れての帰還となったのだ。
相変わらず、違和感を感じつつも、組員達も天然伊吹に懐いていた・・・・
「兄さん・・・すみません・・・ここちょっと・・・」
コンピュータの前で岩崎が呼ぶ
「はーい」
笑顔でやってくる伊吹に 最近は、さほどのダメージを受けなくなった岩崎。
こういうものと認めてしまえば、受け入れられるのだ。
2人で頭を並べて作業している仲良しさん・・・・
「おい!」
後ろから、不機嫌な龍之介の声が聞こえる。
「伊吹をこき使うなと言うたやろ?」
「すみません・・・」
振り返り頭を下げる岩崎・・・
「伊吹、チョット来い」
岩崎に会釈をして立ち上がる伊吹。
「お前は組長側近や。雑用するな。俺の傍におったらええんや」
「すみません・・・」
「まあ、入れ」
書斎に入る2人
「で・・・話とは・・・」
「組のモンに愛想よすぎる。お前が、俺以外のモンと仲ええのは許せん。」
今までも、組員は伊吹を慕っていた。それは別に何でもなかった
が・・・・・
組員にはコワモテだった伊吹が、愛嬌100%なのは許せなかった・・・
「すまん。ただのやきもちや・・・」
龍之介自身わかっている・・・
「大人気ないなあ・・・」
自分で突っ込む・・自己嫌悪の思いに駆られる・・・
「いいえ、気をつけます」
そう言って、抱きしめられて、やっと落ち着く。
「ここで、組長としての龍之介さんの足手まといになりたくなかったから・・・」
ため息をつく龍之介・・・
「お前は、このままの方が幸せなんか・・・・それとも、記憶を取り戻した方がええんか?時々わからんようになる」
「すみません・・・・」
「謝るなよ・・・」
「龍之介さんは、どっちがいいですか?」
「どんなお前も、お前やから、俺は構わん。傍にいてくれたら。でも・・・お前は・・・」
伊吹の背に腕をまわして抱きしめる・・・
「私は、記憶を取り戻します、必ず。あなたとの思い出 忘れるわけにはいきませんから」
「これだけは覚えとけ。どんな状況でも俺らは変わらんということ」
それを、ただ、それだけを望んだ・・・
そして確信した・・・・
これからもそうありたい・・・
「はい」
「だんだん、聡子の出産が迫ってきてるから、お前に気ぃつこてやれへんかも知れん。それが心配で・・・」
それでも、鬼頭組の中なら何とか守られると信じている。
「大丈夫ですよ、私は。それより聡子さん、お産となると、色々不安な事もあるでしょうから
ついていてあげてください」
そう言われると辛い龍之介・・・・板ばさみ・・・
聡子にも苦労させたと思う
親組の内部紛争に始まり、実家の父が襲撃され、伊吹の行方不明・・・・
花園医院に出向いたり、伊吹の記憶喪失の件ではかなり心を痛めていた・・・・
そして何とか落ち着いた・・・・・
こんな状態では 龍之介も、何時までも伊吹だけに構ってはいられない。
「すまんな・・・・」
何度も何度も繰り返す言葉・・・・・
もどかしい思い。
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