微妙な日常 4

 

 昨日の今日で、疲れ果てて、放心状態な龍之介。

たまに鬼頭に顔出すと、あれこれと、する事が多く疲れる。

(毎日通うかなあ・・・)

仕事を貯めると後が辛い・・・

一応、哲三が仕切ってくれているが、組長直々のサインを要する書類などは、保留されている・・・

 

「龍之介さん、お茶です」

伊吹が、ソファーに座わっている龍之介に紅茶のカップを渡す

「ああ」

「お疲れですね・・・」

と、隣に腰掛ける

「色々ありすぎて、今頃疲れが、どっと来た」

それは事実。伊吹とも、なんとなく、ようやく元に近い状態に戻り、一段落してほっとすると疲れがどっと出る・・・

「私のせいですか?それ〜」

「自覚あるんやな。お前が行方不明なだけで、俺の寿命は20年縮まったわ」

「すみません・・・」

「そう思うんなら、残りの人生ずっと俺の傍から離れるな」

伊吹から笑いが漏れる・・・

「おい?」

不審げに振り向く龍之介の肩を抱きしめて、伊吹は肩を震わせる

「可愛いですねえ・・・龍之介さんは・・・」

セクハラだの、なんだのと悩んでいた伊吹は何処へやら・・・・自然なスキンシップが身についている・・

「もう悩まんのか?」

あ・・・

突然身を引く伊吹・・

「そういえば・・・何だったんでしょう・・あれは?」

一週間も腕枕で添い寝すると慣れるのか・・・

記憶は戻らなくても、龍之介といた日々の感覚は戻ってきた・・・

「ふざけた奴やなあ・・・”男同士でどうやって・・”とか言いつつ やれば出来るやんか。ま・・・・

身体が覚えてたということやなあ・・・」

ふ〜            ため息の伊吹・・・喜ぶべきか、哀しむべきか・・・

「落ち込むな〜元に戻りつつあるやんか・・・」

記憶なしでも、何とかやっていけそう・・・

それでいいのか?

取り戻したい・・・・

そう思う。本当は、龍之介と過ごしてきた想い出を余すことなく覚えていたい。

今は大切ではあるが、伊吹には過去も大事なのだ・・・・

 

それでも・・・・

龍之介より大事なものは無いのだろう・・・・

 

「ところで・・・・手紙の鈴木紀子って・・・誰でしょうねえ・・・」

先日、伊吹の金庫から出てきた兄宛の妹の手紙・・・・

「一応説明するぞ。お前には、生き別れの妹がおる。それが鈴木紀子」

「何で鈴木なんですか?」

「両親が離婚して、妹は母親に、お前は父親に引き取られたから。お前は藤島、妹は鈴木なんや」

「写真も?」

「ああ」

あれ・・・・・

伊吹は首をかしげる

「花園医院の紀子さんと同姓同名ですねえ・・・」

(同一人物や・・・・)

のどまで出かかる言葉・・・・・

「まあ・・・ありがちな名前だから〜」

(おい!)

 「今、何処かで出会っても、私 記憶無いから・・・・だめですね、妹の事、覚えてない兄なんて・・・」

会いたいだろう・・・・龍之介は胸が詰まる

「そやから、はよう記憶、取り戻せ。」

ええ・・・

伊吹は頷く・・・・

「紀子さんみたいな気立てのいい妹ならいいなあ・・・」

「お前の妹やから、きっと世話焼きやぞ・・・」

今まで伊吹は、龍之介に対して、妹の事を1.2度しか口にしなかった・・・

忘れたのか・・・忘れようとしているのか、とにかく触れてはいけない気がしていた・・・・

会いたかったのだ・・・・本当は。

 

龍之介にも、本心を告げぬまま・・・今まで、その思いを隠してきた。

自分には父も妻もいる。いづれは息子も生まれる。

しかし伊吹は・・・肉親がいない・・

 

「伊吹・・」

龍之介は伊吹の手を取る。

「今まで、お前の事、何にもわかってやれんと・・・すまん。」

(記憶戻して、妹に会え。お前の妹は お前に似て、世話焼きのオカンや・・・)

長い年月に埋もれながらもなお、持ち続ける切なる思い・・・

 移り変わる季節の中で、取り残された思い、それでも、いつか叶う事を信じて、今も胸に秘めている・・・

 

伊吹は龍之介の肩に腕をまわす

「龍之介さんは、いてくれるだけで癒しですよ。マスコットかペットみたいな・・・・」

「やくざの組長をペットにするか!」

「可愛いものはどうしようもありません」

伊吹の肩に頭を置いて龍之介は目を閉じる・・・・

「すまん・・・お前だけの俺になれんかって」

不本意でも、龍之介は実質上、妻と情夫(いろ)の両天秤。

「え?龍之介さん、浮気してるんですか?私というものがありながら〜」

(何をそんなに明るいんや・・・)

龍之介は苦笑して伊吹を見上げる

「いや。お前だけや。」

それは、出会った時から変わらない。

伊吹の肩に再び頭を預けて、龍之介は微笑む。

 

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