微妙な日常 2

 

 龍之介と、聡子が鬼頭に帰ってくると、伊吹は事務所でコンピュータのデーター管理をしていた・・・・

「おい!誰や!病み上がりの伊吹に仕事させてるんは〜」

「すみません・・・私が難航してたら、兄さんが”やりましょうか〜”って・・・」

岩崎が頭を下げる。

まったく・・・・

記憶が無いのに、何でコンピューターや料理はそのままできるのか・・・

 

「組長!兄さん。お越しでしたか」

外回りから帰ってきた南原が入ってきた

「南原さん、お帰りなさい。相変わらず忙しそうですね。」

・・・・・・

南原も岩崎も、河野も伊吹の天真爛漫に まだ慣れない。

「兄さん、私らに敬語使わんでええですよ・・・」

「はい。すみません〜」

 

がくっ・・・・

 

いつもと違う日常・・・・・

龍之介がいて・・・伊吹がいて・・・聡子がいて・・・

いつもの鬼頭組なのに・・・・何処かずれている・・・

それでも、いつかは皆、受け入れてゆくだろう・・・龍之介はそんな気がする。

 

「お茶入りましたよ」

聡子が台所から皆を呼ぶ

「おい、休憩せい」

皆にそう告げて、龍之介は独り哲三の部屋に向かう

 

 

「晩飯、食うて行け」

入るなりそう言われる・・・

(夕方までいろと?)

皆が伊吹に仕事をさせるので、早々に連れて帰りたい龍之介は、少し浮かない顔をした。

「変に馴染んどるなあ。伊吹は・・・」

「はあ・・・」

やくざに物怖じしていないのはいいが、懐いて、あれこれ首を突っ込むのがなんとも・・・

「案外、やくざ平気やなあいつ。」

鬼頭が特別なのかも知れない。

「ちゅうか・・・根本的に、獣の目は変わっとらんな」

え・・・・

龍之介にはよくわからない

伊吹の中に獣を見た事が無いのだ・・・

「笑うてても隙が無い。」

「俺にはわからん・・・」

はははは・・・哲三は笑う

「あたりまえじゃ。お前の前じゃ、その毒気は消えてしまうんや・・・」

初めて聞いた・・・そんな事・・・

「お前にだけは、違う目ぇする」

それを哲三は、母性愛と思っていた・・・たしかに、途中まではそうだったのかも知れない・・

しかし今は・・・恋慕・・・

「前から知ってたんか?親父は」

「ああ。」

と龍之介の瞳を見る。

氷の刃 そう言われた瞳は、伊吹とは違い公私の区別がある。

組長として、伊吹に接する時は、彼の瞳は冷めている。

プライベートな空間でだけ、彼は、昔の少年時代の甘い輝きを秘めた瞳を伊吹に向けるのだ。

「お前、自分が公私の区別してる事・・・・自覚してるか?」

 「?」

8代目を継承してからは、父親の自分にも容赦なく”男”の目を向ける。甘えは一切無い。

聡子に対してもそうだ。

ふぅ〜哲三はため息をつく・・・

「お前のプライベートは伊吹だけか・・・・で、伊吹は具合はどうや・・」

「それが、時々気ぃ失われて俺の寿命が縮まる・・・」

やれやれ・・・・

哲三はため息と共に俯く・・・・

「記憶は・・・戻るんかなあ・・・」

記憶を戻して、すっきりさせるのが伊吹の為だろう・・

が・・・・

無理はさせたくない。そんな葛藤の中に龍之介は、いる。

 「ところで・・・お前ら、元通りに戻ったんか?」

島津と同じ事を聞く哲三に、龍之介はあきれる

「親父まで・・・」

「すまん・・・」

「いきなり完全復帰は難しいで。それでも、何時に無く、俺は余裕あるんやなぁ・・・」

そうか・・・

満足げに頷く哲三。思ったより大人な龍之介に頼もしさを感じる・・・

「それより、聡子のほう ほったらかしてすまん。」

「6月ごろには、鬼頭に戻れ。産み月やからな」

「ああ」

頷きつつ、部屋を出てゆく龍之介の耳に明るい笑い声が聞こえてくる・・・

 

 

 

台所ではお茶会が繰り広げられている。

「私のこの傷、南原さん庇って出来たんですか・・・」

記憶喪失の伊吹に、皆は藤島伊吹の武勇伝を聞かせているらしい。

「あの時、南原の兄さん放心状態でしたよ・・・」

岩崎がの言葉に南原は一撃を食らわせる

「私って強いんですか?それにしては・・土手から転げ落ちて、川にはまって記憶喪失なんですよねえ・・・」

岩崎の脳裏にあの時の悪夢が蘇る・・・

「すみません・・あの時・・・誰か、加勢をつけるべきでした・・・」

へこむ岩崎を見て、伊吹は慌てる

「そういう意味で言ったんじゃ・・・岩崎さん・・」

 (こいつら何を和んでるんや・・・)

のけ者になった気分の龍之介。

コワモテでも、天然100%でも組の者に人気のある伊吹・・・

違和感を感じつつ、懐いている組員たち・・・・

組長は出る幕無し・・・・・

 

TOP         NEXT 

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system