血縁 5

 

 ある日の夜、寝室で、うつらうつらしていた龍之介は、伊吹がいない事に気付き起き上がった。

また失うのでは・・・そんな不安が胸をよぎる・・・

部屋を出て、リビングを見渡しても伊吹の姿は無い。

そっと、伊吹の部屋に足を運ぶ・・・

 

「伊吹・・・」

机の引き出しを漁っている伊吹の後ろ姿に声をかける・・・

「龍之介さん、先に休んでください」

「何してるんや。」

龍之介が肩越しに覗き込むと、伊吹は振返った。

「あの・・・通帳とか、何処かな〜って・・」

拓海に拾われた時、身分を証明するものを持っていなかったということは、

財布もカードも川に流されてしまったと言う事・・・

しかし・・・鬼頭から給料を振り込んでいる、伊吹の銀行の通帳は持ち歩いてはいないはずだ。

「確かに、それ無いとお前の給料振り込んでも、引き出せへんな・・・」

腕組みしつつ、龍之介は考える・・・

「どうせ、今は仕事してないから、振込みなんてありませんけどね・・・」

「いや。就業中の怪我は手当てが出る。まだ完治して無いから、何割かはもらえるぞ。」

「・・・サラリーマンと一緒ですか?」

サラリーマンを知らない龍之介は、なんとも言えなかった・・・・

「しかし、見つけたほうがええかもなあ・・・お前 預金高、かなりあると見たし・・・」

「そうなんですか?」

酒も、煙草も、博打もしない。もちろん女もいない。外食もしない。必要以外使っていないではないか・・・

「お前、ケチやから、小金貯めとるぞ」

笑いつつ龍之介は茶化す

「そうなんですか・・」

嫌そうに聞く伊吹・・・

「龍之介さんにも今まで、何のプレゼントも無しなんですか?」

「いやあ・・・婚約指輪2つも貰ろうたぞ。」

「はあ?」

意味がよくわからない伊吹。

「でも、お前のプレゼントの中で、一番気にいったモンは藤島伊吹やったなあ・・・これ以上のモンは無いで」

「龍之介さんが貧乏性なんですか?」

「物質欲が無いだけや。藤島伊吹に関しては妥協せえへん。誰にも渡さんし、頭の先から足の先まで俺のモン。」

へえ・・・・

目を皿のようにして驚く伊吹・・・

「龍之介さんて情熱的なんですね・・・」

(人事みたいに言うな・・・・・)

それはそうと・・・・

龍之介は本棚の上においてある(日ごろ気になっていた)小さな金庫に目が行く。

「あれ、」

龍之介が指差す方を見た伊吹は、椅子の上に上がってそれを下ろす・・・

「これですか?」

「貴重品が入ってそうやろ?」

金目の物はないと見てはいたが、引き出しを漁っても出てこないとなると、鍵のかかる 

ここにしまっているとしか思えない。

「でも、鍵、探さなあかんなあ」

「・・・それは・・・多分これかと・・・」

伊吹は右手に小さなキーチェーンのついた鍵を持っていた。

引き出しを漁って見つけたのだ。

 

ゴクリ・・・・・

龍之介は一人緊張していた・・・・

伊吹はこの中に、果たして何をしまっているのか・・・・

 

「もう遅いから寝ましょう」

部屋を出ようとする伊吹を、龍之介は引き止める。

「おい。中見よう。」

「え?」

龍之介の前で開けるのに抵抗がある伊吹は 困った顔をする。

「?俺に見られて、まずいモンでも入っとんのか?」

記憶喪失の自分に、そんな事がわかるはずが無い・・・・

しかし・・・

何か・・・

見られてまずいものが入っているような気がする・・・・

藤島伊吹の本能がそう訴えている・・・・

 

「開けるぞ」

龍之介の有無を言わさぬ態度に、しぶしぶ伊吹は鍵を鍵穴に差し込んだ・・・・

ガチャッ

重い金庫の蓋は開き、一番上に、銀行の通帳が現れた。

「よかった!見つけた」

通帳を取り上げ蓋を閉じようとする伊吹を龍之介は止める。

「待て、他にも何か入ってるやんか。ちょっと見てみよう」

(え・・・・)

気乗りしないまま、再び金庫の蓋は開けられた。

 

「ナンやこれ?汚い字やな・・・て、俺の手紙?」

小学生の頃、龍之介が伊吹に書いたラブレターだった・・・・

「こっちは・・・プリクラですよ・・・」

誕生日ごとに撮った、あの例のプリクラだ。

「男2人でこれ・・・恥ずかしくないですか?」

(・・・・・)

言葉が無い龍之介・・・

「わ〜〜龍之介さんて可愛かったんですね〜」

(!!!)

中学生から高校までの、龍之介の写真が山ほど出てきた・・・

「お前、何処かおかしいぞ・・ストーカーやろ!!」

顔が高潮して赤くなるのがわかる・・・

「あれ・・・」

最後の一枚を取り上げて、伊吹は食い入るように見詰める。

中学生の男の子と、小学生の女の子が並んで家の前で写っている・・・

「誰だろう・・龍之介さんじゃないですね。」

龍之介も我に帰って、伊吹の手元を見る。

(お前の写真やろ・・・)

隣の小学生は・・・・確かに面影がある・・・紀子だ。

龍之介の頬を涙が伝う・・・・

(お前・・妹の写真持ってたんやな・・・)

 

一番下には藤島正美宛の手紙が1通・・・

小学生が鉛筆書きしたものだった・・・差出人は・・・鈴木紀子

 

両親が離婚した後も、2人は手紙のやり取りをしていたらしい・・・・

 

「紀子?・・・・」

その手紙を手にしたとたん、伊吹は頭痛と眩暈に気を失った。

 

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