血縁 4
夕食後、一息をついた紀子に拓海は話しかける・・・
「大丈夫?飲むんなら付き合うよ〜」
伊吹に料理を習った紀子は、最近では花園医院で昼食や夕食を作っては拓海と食べていた。
「何で・・・私、酒なんか飲みませんよ!先生と一緒にしないでください」
「何時僕が・・・」
「知ってますよ・・・藤島さんと酒盛りしてたの・・酔っ払いなんだから・・」
藤島さん・・・
そう言ってはっとする・・・
(お兄ちゃんだったんだ・・・)
「せっかく心配してやったのに〜」
拗ねる外科医、花園拓海。
「やはり、喜ぶべきなんですかね・・・これって・・・」
「さあ・・・嬉しい?それとも失恋の痛手・・」
年下の看護婦に、いとも容易く頭を小突かれてしまう、ボロ病院の院長・・・
「好きだった理由がわかったから、いいんです。それは。ただ 今はお兄ちゃんの記憶が戻る事を祈るだけ・・・」
頬杖をつく、その横顔は確かに伊吹の面影を宿していた・・・
「認めちゃうんだ・・・お兄さんだと・・」
紀子は看護服のポケットから2枚の写真を取り出す
「だって・・・これ・・」
テーブルにならべられた、2枚の写真を拓海は覗き込む。
双子でなければ同一人物としか言いようが無い・・・・
「身体上の特長とかないの?」
「別に・・・」
「痣とか傷とか・・・・」
紀子は首をふる
「ほんとに確実なの?」
「否定材料が見つからない・・」
伊吹の記憶が戻らなければ、確かめる術は無い・・・
「でも・・・藤島さんなら・・よかった」
紀子の記憶の中の兄像、そのままだった・・・
「やくざでも?」
拓海の言葉には答えずに、紀子は立ち上がり、コーヒーを沸かす。
「先生?どう思います?鬼頭龍之介という人の事・・・」
ゆっくり紀子の後姿を振り返りつつ、拓海は考え込む・・・
「悪い人じゃないと思うよ。人に危害を加えるような事もしなさそうだし・・・何より、藤島さんの事、物凄く大事にしてる」
カップにコーヒーを注ぎつつ、紀子は考える。
龍之介と言い、南原といい、聡子といい・・・皆 伊吹を大事に思っているのが、言葉や仕草から伺える・・・
「鬼頭組って、いいトコみたいですよね・・・」
拓海にカップを渡しつつ、そう言うと、紀子は自分のカップを持って席に着く
鬼頭哲三・・・先代組長で、龍之介の父親・・・
拓海は、電話でしか話したことは無いが、その人柄もなかなかのものだった。
「義理人情ありそうかな・・・温かい感じはする。」
拓海の言葉に紀子は頷く。
「きっと、お兄ちゃんは幸せだったんでしょうね・・・・そこで・・・」
グレてたり、すさんだ暮らしをしていたわけではない。そう思えるから、やくざの兄も受け入れられそうな気がする・・
「そこで・・・大事な人を見つけられたんだから、幸せだと思うよ。」
頷きつつ、コーヒーを飲む拓海に、紀子は身を乗り出す。
「誰なんですかその人?お兄ちゃんの言ってた最愛の人って、先生知ってるんですか?」
「鬼頭龍之介。あの組長だよ」
(え・・・)
乗り出した身が固まる・・・・
「相思相愛、まさに運命の人」
(いや・・・そういう問題では・・・)
「奥さんいるじゃないですか・・・あの組長・・」
確か、聡子は身重だった・・・
「しょうがないじゃん・・・法的に結婚できないし・・・子供できないし・・・」
こともなげにコーヒーをすする拓海の目の前のテーブルに、拳を打ち付ける紀子・・・
「それ・・・お兄ちゃんは妾同然て事でしょう?」
「業界用語じゃあ情夫(いろ)と言う・・・」
「いいんですか・・・」
(いいも何も・・・)
さっきまでのセンチメンタルな雰囲気は何処へやら・・・
拓海は完全に押されている・・・
「紀ちゃん、世間体も、形にも囚われてないんだよ、彼らは。2人を見れば君もわかるよ。」
確信に満ちた拓海の言葉に、紀子は何も言えなくなる。
駆け引きも、下心も無い、むき出しの愛情しか持たない2人の生き様を垣間見た拓海は静かに窓の月を見る。
(君もいつか理解する・・・君のお兄さんの歩んだ道を。)
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