血縁 3

 

ファミリーレストランを出て、龍之介は駐車場の鬼頭の車に乗り込む。

「話は済みましたか?」

高坂が運転席から声をかける

「ああ、お前  腹すいたやろ?待たせてすまん」

「いいえ。これから、兄さんのマンションですね」

「ああ。伊吹んトコでメシ食え」

え・・・・

”部外者立ち入り禁止区域”と呼ばれている伊吹のマンション・・・・

組長のプライベートルームでもある、その部屋にあがる事など出来ようか

「ええです・・・メシは組に帰って食います」

「遠慮すんな・・南原と言い、お前と言い・・何を怖がっとんねん」

(遠慮すんのはあたりまえでしょ・・・)

「何か、お前ら、変なこと想像してへんか?」

(私らの想像は・・・現実そのまんまやないですか・・・)

「伊吹が戻ってから、一度も会うてへんやろ?会うてけ」

会うのも怖い・・・・

天真爛漫、天然100%になってしまった伊吹・・・

これ以上、憧れの藤島伊吹が崩れるのは耐えられない・・・・

 

が・・・・・・・・・

 

マンションでは、すでに”部外者立ち入り禁止区域”を侵害している者が一人いた・・・

「組長、お帰りなさい。お邪魔しております」

ダイニングで、お茶会中の南原が、龍之介を見て立ち上がった。

「帰ってたんか。南原、ご苦労さん」

(兄さん・・・)

(高坂・・・)

困り果てた顔で、見つめ合う二人・・・・

「お食事は?」

「済ませた」

龍之介の脱いだ上着を受け取り、ハンガーにかける伊吹・・・

「あ、高坂が昼飯、まだやから、何か食わしたれ」

「はい」

台所に立ちチャーハンを作り始める伊吹・・・

昔、鬼頭のおさんどんも勤めたと聞いていたが、高坂には見慣れぬ光景である。

(古女房か・・・新妻か・・・)

泣きそうな高坂を、ダイニングの椅子に座らせ、龍之介は冷蔵庫からサラダを取り出してテーブルに置く。

「ああ・・コンソメスープもあるぞ・・」

ガスレンジに火を点ける龍之介・・・

(組長も〜〜〜〜!!)

この空間はいたたまれない・・・違うのだ。ここは殺伐とした、やくざのイメージとは天地の差がある・・・

南原の手が高坂の肩に置かれる

「辛抱せい」

「兄さん・・・」

「俺も 藤島の兄さんに無理やり連れ込まれたんや・・・」

見る見るうちに高坂の昼食の準備は整った。

「どうぞ、あの・・高坂さんでしたっけ・・」

クールな伊吹の満面の笑顔・・・天真爛漫・・・・

高坂は唖然とする・・・・

(内外共にオカン・・・)

眩暈がする・・・

「高坂しっかりせい!」

南原の渇で我に戻る。

「・・・いただきます・・・」

食べ始める高坂を見つつ、龍之介は自分の紅茶のカップを持って席に着く。

「伊吹。コイツが高坂で、新入りや。よう働くけどおっちょこちょいや。」

「高坂さんもやくざなんですね・・前に、南原さんと花園医院に来られましたよね・・」

笑顔で伊吹に話しかけられて、苦笑する高坂。

(兄さんも・・・やくざですよ・・・)

 「会うとったんか・・・お前ら・・・」

「はい」

世話される方と、世話してる方が逆転してる龍之介と伊吹・・・

違和感は南原と高坂を覆う・・・・

しかし・・

当の2人は、昔からこうであったかのように型にはまっている

立場が変わっても愛情は変わらない・・・

そういうものなのか・・・

 南原が案じた伊吹の記憶喪失にも、龍之介はびくともせず受け入れた。

幸せなのだ・・・一緒にいるだけでこの2人は・・・

 

「時々、手伝いに行くか?拓海先生のとこ・・家に篭ってるのも何やし・・」

と言った後、龍之介の脳裏に紀子のことが浮かぶ・・・

「少しここに慣れてからにします。そのうち鬼頭組にも顔出していいですか?」

「ああ。」

新しい記憶を作って行けばいい・・・そんな前向きさが伺える。

だから・・・

新しい伊吹を受け入れよう・・・高坂はそう決意した。

龍之介がそうしたように・・・

 

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