血縁2

 

花園医院と書かれた扉を開け、龍之介は中に入る。

ちょうど、午前の診察時間が終わった頃・・・

「鬼頭さん・・」

拓海が椅子に座った姿勢で、伸びをしたまま振り返る。

「お昼をご一緒しませんか?」

 

 

近くのファミリーレストランで、拓海と紀子を前に座る龍之介・・・・

「おごりますから、何でもどうぞ」

日替わり定食をオーダーした後、拓海は龍之介を見る。

「何か、お話があるんじゃないですか?」

「はい。実は、そこの看護婦さんに。」

え?

紀子は拓海を見る・・・

「紀ちゃんは初対面だったね。鬼頭龍之介さん。鬼頭組の組長で藤島さんの・・・上司。」

「初めまして・・・・」

ぎこちなく頭を下げる紀子

艶やかな黒髪、何処となく、伊吹に似た面立ちの紀子に龍之介は見入る。

「僕、邪魔じゃないですか?」

明るく笑う拓海・・・

「いいえ。堅気のお嬢さんと、サシで話つうのもなんですから、先生は保護者としていてください。」

「はあ・・」

事の重大さを感じて、拓海の顔から静かに笑いが消えて行く。

 

料理が運ばれてきて、一瞬の沈黙が流れ、龍之介は冷ややかな笑みを浮かべて言う

「まず、お食事してから・・・」

食事をしつつ、紀子は気が気ではない

話とは伊吹のことだろう・・・

伊吹が花園医院を去るとき、自分はその場にはいなかった。

感情的になる事を恐れて拓海の言うまま、おつかいに出た。

そして、後で聞かされた。伊吹は鬼頭の組長の”大事な人”である事を・・・

それが具体的に、どんな関係を意味するかは、はっきり判らないが言える事は

龍之介が自分に”伊吹にちょっかい出すな!”

と言うために自分をここに呼んだのではないかということ・・・

 

自分に危害を加えるつもりは無いだろう事はわかる。怯えさせない為に、拓海を同席させたのだろうから。

しかし、よくは思ってはいないだろう・・・・

 

「鈴木・・紀子さんでしたね・・」

紀子の緊張に耐えかねて、龍之介は口を開く

「はい。」

「お兄さんに会いたいですか?」

え?

思いがけない話題に、紀子は思考回路が停止する・・・

「生き別れのお兄さんがいると、お聞きしたので・・・」

「はい。会いたいです」

「もし、お兄さんが、貴方の立場に危害を及ぼすような立場にいても?」

その事は何度も考えた・・・犯罪者になって、逃亡中とか、借金に負われて逃げているとか・・・

最悪の事態を想像してみた・・・・

「それでも・・会いたいんです。私なんか、足元にも及ばないくらい偉い人になってて、”お前なんか知らない”

って言われても、ひと目会いたいんです」

「お兄さんの名前は?」

「藤島正美。お兄さんがまだ、お母さんのお腹にいる時に”絶対女の子だ”って決めてて、

正美って名前付けたんです。生まれたのは男の子だったけど、そのまま正美にしちゃったそうです・・・」

「字は 正しい に 美しいですね?」

「はい」

おそらく間違いないだろう・・・

龍之介は確信する

「写真ありますか?お兄さんの」

頷いて、紀子は鞄から手帳を取り出し、その中から古い写真を取り出した

「お母さんが持ってた、お兄さんの写真・・・これが一番最近の写真なんです」

詰襟学生服・・・中学生の少年が写っている。学校で撮った物だ。

(伊吹・・・)

5歳の頃の記憶は曖昧だが、龍之介はアルバムでその頃 母と伊吹と3人で撮った写真を見ている・・・

上着の内ポケットから、その1枚を取り出して紀子に見せた

「これ・・」

訳もわからぬまま受け取った紀子は、写真を見て息を飲む

「同一人物ですよね?」

「何なんですか?どうしてここにお兄ちゃんが写っているの?」

「それは、5歳の頃の私と、母と、15歳の伊吹の写真です」

ガチャン

紀子の手からフォークが落ちた

「単刀直入に言います。藤島伊吹は、貴方の生き別れの兄である可能性が高いんです」

完全に思考が停止した紀子に代わって 拓海が問い返す

「名前が・・・違うじゃないですか?」

「伊吹の本名は正美なんです。正しいに美しいの正美。伊吹と言う名は、ウチの親父がつけたやくざ名です。」

拓海は自分が何故、紀子と伊吹はダメだと感じたのか・・・その訳を知った。

血の縁を感じたのだ・・・2人に・・・

「伊吹は15の時に、親父さんの借金のカタに、ウチに引き取られました。当時、鬼頭はまだ小モノで、

ケチな高利貸ししてましたから・・・・と言うても、伊吹はウチで、息子同然に暮らしてきました。

私が母親亡くしてからは、私の母代わりでしたが。」

紀子の瞳から涙が零れる・・・・

「今・・・お兄ちゃん・・私の事も覚えてないんですよね・・・」

「はい。それに、名乗りを上げるのは、もう少し待ってて欲しいんです。あいつは、妹に会うても、

遠くで見守りたいと言うてました。自分がやくざやから・・・・あいつの意志で名乗り出るまで待ってください。

ただ、紀子さんが伊吹の事 好いてはるんなら、深入りする前に事実を伝えるべきかと思うたんで・・・」

「そうか・・・お兄ちゃんだったんだ」

「なんなら、遺伝子鑑定して確認してください。何かあったら、連絡ください。ごゆっくり・・・」

名刺を紀子に渡して、龍之介はオーダーの伝票を持ってレジに行く。

 

”運命の人”だと思った伊吹が、生き別れの兄だった・・・・・

悲しいような、嬉しいような、複雑な思いに翻弄される紀子の横で、拓海は出会いの奇跡に驚いていた・・・

 

TOP         NEXT  

 

ヒトコト感想フォーム
ご感想をひとことどうぞ。作者にメールで送られます。
お名前
ヒトコト

 

 

inserted by FC2 system