帰還 5

 

やっと伊吹の部屋は2ヶ月ぶりに主人を迎えた。

「ここがお前の家。」

ドアを開けて、龍之介に続いて入る・・・・

「組長、私はこれで・・・」

南原は玄関で頭を下げる。

「茶でも飲んで行け」

龍之介の誘いに、真っ青になって辞退する南原

「とんでもない!ここは部外者立ち入り禁止区域ですから・・・」

(なんか・・ようわからん奴やな。)

そそくさと立ち去る南原の背中を見つめつつ、龍之介は首をかしげる。

もう日は暮れ、薄暗い部屋の中、伊吹は無駄のない動きで灯りをつけた。

「伊吹?」

そして、台所のやかんで湯を沸かす・・・

「お茶入れますね」

「この部屋の何処に何があるか・・・判るんか?」

龍之介の言葉にはっとする

「そういえば・・・体が・・自然に動くんです」

記憶喪失になっても、生活に支障はなさそうだ。

 

「お帰り・・・」

後ろからそっと、龍之介は伊吹を抱きしめる。

安心感が押し寄せてきて、そのまま涙が溢れてくる・・・

「鬼頭さん?」

 

いつも、自分にしがみついて泣いていた少年がいたような気がする・・・・

そして・・・

その少年は伊吹の記憶の中で、だんだん成長して中学生になり・・・高校生になり・・・・・

 

 

伊吹は無意識に、龍之介の方に向き直ると、その顎を持ち上げてくちづけた・・・・

(伊吹??記憶が戻ったんか?)

龍之介がそう思った瞬間、伊吹は龍之介から離れた。

「すみません!今 私、鬼頭さんに変な事してしまいました・・・」

(変な事・・・・・)

呆然とする龍之介

(どないなっとんや・・・・)

「どうしょう・・・これ、セクハラですよねえ」

説明に困る龍之介は、言葉もなく立ちすくむ・・・・

 

 

目の前の紅茶を前に、落ち込む伊吹と、しどろもどろにフォローする龍之介・・・・

「私・・変態かも・・・」

(なんで?)

伊吹に落ち込まれて、更に落ち込む龍之介・・・

「ほら・・俺が7つの時から、お前はお袋の代わりやったんや・・・そやから、おやすみの”デコにちゅー”とかはやな

異常な事とちゃうんや・・・その延長線上で、泣いてる俺にちゅーしても・・・それはそういうもんや」

かなり苦しい龍之介・・・

「・・・・”おでこにちゅー”じゃないじゃないですか・・・さっきのは・・」

半泣きな伊吹。

(お前・・・俺とキスしたんがそんなにショックなんかい!!!)

だんだん腹が立ってきた龍之介・・・

「俺、子供の時より背ぇ伸びたから、ちょっとくらい位置がズレても・・・ようあるよ、そういうこと」

「ないですよ」

取り付く島もない伊吹の言葉にしぼむ龍之介・・・・・

 

「そやから・・・後悔してるんか?男同士でキスしてしもた事?」

「じゃなくて・・・あなたに、痴漢まがいの事をしてしまったから・・」

(痴漢かい!!!)

心で大泣きの龍之介

「気にすんな。お前と俺は母子。子供の頃は、お前に風呂に入れてもろてたし、腕枕、膝枕は基本やし、

お前の舐めてたアメ、無理やり奪って舐めた事もあるし・・・」

だんだん訳が判らなくなってきた龍之介・・・

 

「嫌じゃなかったですか?」

(は?)

伊吹の言葉に我に帰る龍之介。

「鬼頭さんに嫌われたくないから、あなたの嫌がる事、したくないんです」

(ああ・・・そうか)

龍之介は微笑む

相変わらず、伊吹は龍之介のことしか頭にないらしい。

「”ちゅー”は大歓迎するから」

「また・・・そういう冗談を・・・」

(冗談やないで・・・・・)

「まあ、気にするな。お前と俺の仲やないか〜」

しかし、伊吹はかなり真面目に悩んでいた・・・

「もしかしたら・・私、鬼頭さんの事、好きかも知れないんです」

ぶっー

飲みかけていた紅茶を吹く龍之介・・・・

嬉しいのか、哀しいのか・・・複雑な気分だ。

「俺は、お前に好かれたいなあ・・・」

布巾でテーブルを拭きながら、龍之介はひきつる・・・・

「そういう好きじゃなくて・・・」

言いよどむ伊吹を眺めつつ、気を取り直して紅茶を一口・・・

「このまま2人だけでいると・・襲っちゃいそうな気がして怖いんです・・・」

ぶっーーーー

紅茶を吹く龍之介・・・・・2度目

あの藤島伊吹の口から、そんな言葉が出てこようとは・・・・耳を疑う龍之介。

「ああ・・・一回くらい、襲われてみたいなあ・・」

ひきつった笑いを浮かべて、龍之介は再び布巾でテーブルを拭く

(毎晩襲われてもええけど・・・)

 

「・・・・また、冗談を・・・・」

真剣に悩んでいる伊吹。

 

「鬼頭さん。やはり今晩、避難したほうがいいですよ。」

悩んだ挙句の伊吹の結論。

 

事実を告げるべきか、言わざるべきか悩む龍之介。

 

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