迷いと決意 4

 

哲三の部屋で、深刻な顔で向かい合う哲三、聡子、南原・・・

龍之介が留守の間に、伊吹の話をしようと集ったのだが・・・・

「その・・・ボロ病院を、手伝うとんのか?伊吹は?」

「もう、愛想いいんです。爺さん婆さん相手に・・・・」

南原は半泣きだった。

「記憶が無いて?」

「はい、被弾のショックと、頭部打撲と、川に落ちた衝撃で・・・・」

ため息の哲三・・・・

「伊吹、なんで・・・すぐ連れて来い!大きな病院で精密検査する」

「一応、精密検査はしたみたいです。ボロ病院の医者が、出張執刀してる大学病院で・・・」

そのボロ病院ー と言う響きが、哲三には頼りなく聞こえる。

「兄さん、そのボロ病院になじんでて・・・ファミリーになってまして・・・」

情けない顔をする南原を見て、哲三も眉間に皺を寄せる。

苦笑しつつ、聡子はフォローする

「花園医院の方達は、皆いい方で、貧しい人からは治療費を取らないみたいなんです・・・

それで経済的に大変なんですよ・・・」

「なんにしても有難いことや。謝礼ど~んと出したれ。とにかく、医者に拾われてよかった。

坊さんに拾われてたら・・・・」

「先代、そういうギャグかましてる時とちゃいます」

南原に言葉に哲三は自粛する・・・・・・

「伊吹さん、鬼頭にお連れして大丈夫でしょうか」

聡子の言葉に、哲三は首をかしげる

「やはり・・・びびるかな?」

哲三に言葉に南原は大きく頷く

「完全に、堅気化してますけど・・・」

ふーん・・・・考え込む哲三・・・・

「初対面からあいつ、やくざにけんか腰の、どえらい中学生やったけどなあ・・・」

「どっちかツーと、昔の組長みたいになってますよ。」

え・・・・

南原の言葉に、想像もつかないまま哲三は言葉を失くす。

「ほら・・・”ぼん”時代の天真爛漫な・・・」

組長側近には戻れないだろうと、ぼんやり考える

「堅気でも、天真爛漫でも、伊吹さんは伊吹さんなんですから・・・お呼びするべきでしょう?」

聡子の意見に頷く2人

「しかし・・・龍之介は・・衝撃強いで・・・」

まさか、伊吹が天真爛漫になったからと、見向きもしなくなるような事はないと思うが・・・・・・・

若干不安な哲三だった・・・

「問題は・・・忘れられたと言う衝撃ですよねえ・・・」

ー伊吹を見つけたぞ!でも、記憶喪失でお前の事全然覚えてないぞー

そんな事、言えるわけが無い・・・・

「会えば・・・何かが、変わると思うのは、甘いでしょうか?」

思いつめた聡子の言葉に、哲三はYESともNOとも言い切れずにいる

 

長い沈黙の後、哲三は顔を上げる

「伊吹はワシの息子も同然や、引き取るのは当たり前や。それに、龍之介のためには、伊吹は必要や。

記憶喪失は時間かけても直してみせる。もし記憶が戻らんかっても、伊吹は鬼頭の一員や。手放す気はない。

ワシのそばに置く。やくざが嫌やったら、そのボロ病院で働いてもええ。とにかく連れ戻す」

 

それが哲三の結論・・・・

 

「龍之介にもワシが話す。嫌もなにもない、あいつのおる場所は、ワシと龍之介の傍しかないんやから」

 

哲三の強い意志に、聡子は勇気付けられる。

父親なのだ・・・伊吹にとって哲三は。組長とか、先代とか、そんな役職の前に肉親なのだ

血の繋がらない肉親・・・・

 

聡子は幼い頃、鬼頭に来て、鬼頭の人間味に魅かれたように、

記憶の無い伊吹も、ここに来て、鬼頭が好きになるはずだと確信する。

 

もう、何の心配もするまいと思う・・・

 

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