それぞれの日々 4

 

学校の帰りに、桃香は南原を呼び出して、カフェでお茶をしていた。

 

「呼び出してすまん・・・忙しなかったか?」

「はい。今は特に」

紅茶とケーキを前に、南原は微笑む・・・・

それが桃香には哀しかった。

「こんな時に・・・・すまん。」

「いえ、気晴らしになります。それより、嬢さんもお父さん失くしたばっかりやのに・・・傍にいられなくてすみません」

うん???

桃香は首をかしげる

「嬢さんか?」

「もう・・・恋人ごっこは終わりでしょう?」

ふうん・・・・・

不服そうな桃香

「つまらんなあ〜そのまま、圭吾ゲットできるかと思うたんやけど。」

ははははは・・・・・・・

笑う南原を睨みつつ、紅茶を飲む桃香

「梅乃さんも戻られましたか・・・・」

「うん。姉貴、板前と別れた。今回の騒動で恐れをなして逃げよった。さらに・・・高級料亭の

一人娘との縁談まで持ち上がってなあ。初めからそんな度胸のない男は願い下げじゃ。」

「梅乃さん・・・・落ち込んではるでしょう?」

「うん。なんか・・・稲垣が必死に慰めてる。もともと、あいつ姉貴に片思いしとったんや」

四天王中で一番真面目で不器用な稲垣・・・・

やくざに向かないほどの律儀なサラリーマンのような男。

「まあ、稲垣やったら・・・ええや無いんですか」

「そう思うか?」

頷きつつ南原は紅茶を一口

嵐の傷跡は癒えつつある・・・・・・・なのに・・・・・・伊吹がいない。

 

「鬼頭さん、藤島と・・・・やったんやなあ・・・」

ふっー

南原は笑う

「心配してます?私のこと?」

「つらいなあ・・・・片思いは」

「もう、とっくの昔に私は、組長と兄さんの事、祝福してますよ。少し・・・見苦しい事してしもうた過去がありますが」

それもいい思い出だろう・・・・・と思う・・・・・・・

 「室戸の部下が、あの周辺の町を探ってるみたいやけど・・」

「何か判りましたか!!!」

南原にいきなり乗り出されて、あきれる桃香・・・・・・

「まだ、鬼頭さんには内緒や、ぬか喜びさせとうないし。似たような介護士を見たとか・・・」

「介護士・・・・ですか・・・」

乗り出した身を元に戻す南原・・・・

「ボロ病院に最近住み着いた30代の男がおって・・・・商店街では、男前の介護士と呼ばれて親しまれてると・・・・」

何の事か判らないまま頷く南原・・・・・・・

「何処から来たか、不明らしい。いっぺん見て欲しい。鬼頭さんに報告して、その後”

やっぱり違いました〜”じゃあ、まずいやろ?」

うん・・・・・・・

頷く南原・・・・・

「他人の空似とか・・・ありますしねえ。」

「藤島て・・・兄弟あるんか?双子とか?実は双子の兄でした。じゃあ笑えんし・・・」

「生き別れの妹が一人おる・・・確か、そう聞きました」

 

その介護士が伊吹なら・・・・南原はわらにもすがる思いだった・・・・・

しかし・・・・・

彼が伊吹として、何故、介護士をしているのか?何故、鬼頭に戻らないのか?

 

嫌な予感がした・・・・・・・

 

「まあ、藤島の話はここまで。ところで、圭吾、ホンマに婿養子来る気ないか?」

冗談とも、本気ともいえない桃香の言葉に南原は詰まる・・・・・

「鬼頭から出る気ありませんから・・・・万が一、嬢さんと結婚することになっても婿養子はありません。」

万が一・・・・・

その甘い可能性に酔いしれる桃香・・・・・

「私と結婚するなら、淀川組の娘の肩書き捨ててください。鬼頭の若頭の女房になる気で来てください」

釘を刺したつもりの南原・・・・・

万が一の可能性を夢見る桃香。

「望むところや。ウチも、姐なんかにゃあ向いてないんや。どっちかつーと、圭吾一人に尽くしたいなあ・・・」

「はあ・・・・・」

方向性を見失い、途方に暮れる南原に桃香はたたみかける

「こう見えて、うちは古風な女なんや」

 

「・・・・・そう・・・・・ですか・・・・・」

引きつった笑いをうかべつつ、南原は立ち上がる。

「送ります・・・・」

 

「万が一の可能性はあるんか????」

後ろから追いついた桃香の腕が南原の腕に絡む・・・・・

「万が一は・・・・万が一ですから・・・・・」

「全然可能性無し、じゃあないと言う事?」

 

桃香といると心が和む南原・・・・まだ可愛い妹の域を出てはいなかったが。

それでも・・・癒される。

 

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