嵐の痕 5

 

伊吹のいない鬼頭組・・・・

高坂は、南原の落ち込みと、岩崎の焦りに似た働きっぷりに戸惑う毎日だった。

いや、それより・・・問題は・・・・

抜け殻と化した組長・・・・・・・相変わらずの土手通いでいつも不在。

しかし誰も何も言わない・・・言えない・・・・

哲三が組を取り仕切っているが、島津も心配で鬼頭に滞在している・・・・

皆、無言・・・・・

いたたまれない高坂は、ふと土手に向かう。龍之介がいるはずの・・・・

 

 

「組長・・・・」

川下の方に佇む龍之介に声をかける

「高坂・・・すまん。すぐ戻る。」

泣いた後のような目が、高坂を見つめる。

「いいえ、呼びに来たんと違います。心配で・・・兄さんの事も・・・組長の事も・・・」

ふっー

龍之介がかすかに笑う・・・・・

「お前、ええ奴やなあ・・・」

今ならわかる。組員全員が、龍之介と伊吹の事を温かく見守ってきていた訳を。

皆、2人に癒されていたのだ。あの幸せな、満ち足りた雰囲気が好きだったのだ。

今は、鬼頭組そのものが暗く沈んでいる・・・・・・・

「最初は、伊吹に付きまとって嫌な奴やと思うてたけど」

え〜〜〜〜

冷や汗の高坂・・・・・・・

「違います!!!!私は・・・ノーマルですっ」

「あほか・・・・」

苦笑する龍之介・・・・・・・

「藤島の兄さんは、私の憧れなんです。確かに、中身がオカンキャラと気付いて、ショック受けましたが、

そんなオカンなトコも、今は好きなんです・・・そやのに・・・・」

言葉に詰まる高坂の肩に、龍之介は手を置く。

「生きるの辛いのに・・・・死なれへん。あほやろ?俺は」

「組長、組長には・・・姐さんも、生まれてくる子供もおるやないですか・・・」

「あいつを亡くしたら・・・・もう何にも無いんや。俺には立場とか、責任とか、そんなモン重荷なだけや

8代目継いだんも、伊吹の傍にいたいから・・・軽蔑するやろ?」

今ならわかる気がする。南原の言った龍之介と伊吹の絆の深さ・・・・

確かに、宿命とも運命ともいえるこの関係を、スキャンダルに取り扱うことは許されない気がした。

「それだけ、大事な人やったんですよねえ」

「俺の一部にしてしまいたいくらい・・・・」

「組長て、案外・・・過激ですねえ」

どきまぎする高坂・・・・

「過激で露骨で、貪欲で突進型・・・・あいつの前ではいつも子供やった」

「それは・・・想像つきません・・・・」

甘える龍之介を想像して、鳥肌を立てる高坂・・・・

「そうやろうなあ、この鬼頭の8代目を”可愛いぼん”扱いできるのは、あいつだけやろ」

5歳の頃の龍之介・・・・15歳の頃の伊吹・・・・2人が過ごした年月は誰も割り込めない。

「すまん。なんでお前にこんな事、話たんやろう」

「気晴らしになるんなら、何ぼでもお相手します・・・」

龍之介は土手を登り始める・・・・・高坂もそれに続く・・・

「俺は組長失格や。伊吹のためなら、組も姐も捨てられる・・・平気でそんな事言うてたんやから。

そやからバチがあたったんと違うか・・」

「南原の兄さんが言うてはりました。藤島の兄さんは組長の為なら、組捨てる人やて」

「ああ。実際、そうやった。そやから、運命に嫌われたんと違うか・・・」

そんな事が・・・・・

あるのかと高坂は思う。

組中の皆が、龍之介と伊吹の幸せを望んでいたのに。

「岩崎、まだ責任感じとるか?」

「はい。かなり・・・」

「俺が・・組の雰囲気、悪くしてるんか?」

 「いいえ・・・皆、藤島の兄さんが好きやから・・・」

車に乗り来むと、龍之介は淀川組に向かうよう指示した

 

 

 

「鬼頭さん・・・」

客室で待っていると、桃香と室戸が客室に入ってきた。

「どうですか・・・・」

「近くの病院、ことごとくあたりましたが・・・そういう患者は運び込まれてないそうです・・・」

室戸は報告書を差し出す・・・・・

桃香はお茶を差し出したあと、ソファーに腰掛けた

「死体も・・・上がってない・・と?」

「はい。警察にも探りを入れてみましたが、あの付近からは死体があがっておりません」

ふーっ

ため息をつく龍之介・・・・

「すみません。うちの組のせいで・・・」

桃香が頭を下げる

「いや、嬢さんが無事で、事件が解決して何よりです。こちらこそ・・・こんな事、お願いしてすみません」

作り笑いの龍之介が痛々しい。

「圭吾は・・・元気ですか・・・・」

「かなり、ショック受けてます。時々、気分転換に連れ出してやってください」

え・・・・

桃香は戸惑う・・・・

「こんなときに・・・・」

「もうそろそろ、あいつも兄貴離れせなあかん時期でしょう。嬢さんの助けが必要なんとちゃいますか・・・」

知っている。と桃香は思った。龍之介は、南原が伊吹を好きだった事を知っている・・・・

「圭吾は・・・藤島の事・・・」

自分は割り込めない・・・・そう思う

「そのことは、カタがついてます。伊吹は別に相思相愛の人がいますから」

やはり・・・・

桃香は胸がつぶれそうになった・・・・・

(やはり・・・・鬼頭さんは藤島と・・・)

伊吹を失くした龍之介の痛み、報われないまま、伊吹を失くした南原の悲しみ・・・

ぽろぽろ・・・・・涙が零れる・・・・・

「すみません。うちの内部紛争のために・・・・・」

「嬢さん・・・・・」

龍之介は桃香の手を取る

「南原は嬢さんにお任せします。」

立ち上がる龍之介に室戸は話しかける・・・・

「諦めません、藤島は絶対探します。」

黙って頭を下げて、龍之介は出て行った。

 

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